概況
前会計年度(2002年4月~2003年3月)は、売上高前期比39.4%減の落ち込みを記録しました。 1998年7月の創業以来はじめての減収減益決算です。
その主な要因は、(1)02/3月期から03/3期にかけて生じた受注・回収の期ずれ要因、(2)期末ドル安に伴う為替差損の発生、(3)金融業界の低迷傾向持続に伴う需要抑制、の3つです。 当社財務には、システムプロジェクトの平均的な資金回収期間が約1年であるために、1年後の業績を大体見通せてしまうという特性があります。 前期決算時の見通しでは、(1)の期ずれ要因が働き2003年3月期は売上高3億円台前半まで落ち込むとの減収減益決算を予想しておりました。 結果的には年度後半からの受注増があって予想を若干上回ったものの、相変わらず厳しい業績であったことには変わりありません。
その他の財務項目については、引き続き投資を抑制、販管費を現状維持して黒字傾向を持続、健全性指標もさらに上昇しています。 設立当初からの無借金経営、外からの仕入れがないという当社の特徴もあって、2003年3月末の株主資本比率(自己資本比率)は97.0%に達するという非常に健全な財務内容です。
今期については、前期後半からの需要回復傾向を反映して、受注残消化に伴うリバウンドを予想しております(グラフ参照)。 経営的にブレーキを引きすぎと思われるかもしれませんが、当社が属する金融系パッケージソフトウェア業界は引き続き先行き不透明感がありますから、当社は高額納税法人である点を除けば社外流出は極力抑える方針であり、無配当を継続する予定です。 また投資は抑制するものの、当社は業容対比極端にスリムな人員体制であり多忙な状況が続いておりますから、採用面については積極的に考えていきたいと思います。 また営業面では銀行系単独需要から生損保を含めた総合需要へとシフトが進んだために、当社はいわば「VaR(バリューアットリスク)の会社」から「ALM(アセットライアビリティマネジメント)の会社」へと変貌しつつあります。 このため、「大規模シミュレーション」、「高速計算」を主軸とした経営シミュレーションソフトウェア企業の性格をより強めていきたいと考えております。
当期売上高
353,091,300円
昨年度の売上高は、これまで主力であった信用リスク管理システム製品 CreditBrowser の減少分を、市場リスク管理との統合製品である PortfolioBrowserとALM関連の新製品 Altitude が補う結果となりました。 当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。 外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しません。 販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
金融資産については安全性と流動性を重視し、普通預金、郵便貯金、政府債に分散して保有しております。 MMFを含め利回り保証のない短期金融資産、定期預金、運用目的の長期資産、節税目的の保険資産は一切保有しておりません。 固定資産は大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は超短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
当社は日本の金融危機に呼応して前々決算期の2002年3月期に金融機関取引の整理を行い、流動資産の一部については政府保証の郵貯振替決済口座に移動するとともに、当時の保有資産の半分弱を米短期割引国債(T-Bill 3M)にシフトしました。 このため安全性は確保したものの、期末の円ドル為替水準の関係で前期末については為替差損がかなり出ており、収益が押し下げられました(前々決算期は逆に増収要因として作用)。
今期についても本業とは関係のない運用で稼ぐという発想はせず、金融情勢、国際情勢を睨みつつ安全性重視で運用する方針です。 保有資産に占める外貨比率は高水準のままで維持する方針ですから、新年度も日本円建て決算に対する為替レートの大きな影響が予想されます。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 253,742,750円 (2002年3月決算後)
資本勘定の253,742,750円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号 25295。 登録年月日平成11年2月28日。 このプログラミング等準備金については法令改正(廃止)が決まっており、当社では2004年3月期決算以降取り崩していく予定です。
株式保有状況については、当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切存在しません。 当社は資本的に中立的な企業です。
設備投資の状況
昨今の金融機関の合併に伴い計算対象となるデータ量が増加、各金融機関への支援能力維持のためには、自社保有システムの強化が急務です。 また、設備陳腐化は研究開発の妨げになります。 このため、耐用年数の残るコンピュータシステムであっても1~2年経過した程度で積極的に除却を行い、新規に買い換えております。
2003年3月現在、テラバイト級の容量を持つ並列CPUのUNIXおよびWindowsサーバー機を多数保有しており、開発および顧客のバックアップに備えております。 昨年度中においては、新規購入分はPCサーバーおよびメンテナンス目的のHP Alphaサーバーでした。
業務環境
当社の特徴
当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、ALM・収益管理、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。
当社は業種分類的には情報サービス業に属しますが、非常に専門性の高い分野に特化していることから事業特性としてはコンサルティング業に類似しています。 人員的にも金融および研究者からの転向者が含まれ、いわゆる情報サービス系企業の雰囲気とはかなり社風が異なっています。
需要動向
この10年ほど金融リスク管理システムの分野はBasel II、いわゆる新BIS規制を念頭に走ってきました。 近年の当社の好業績もこれを映したものです。 当社は1998年の設立当初から大手金融機関の全与信件別をフルモンテカルロで計算するという当時では世界的にも唯一の製品を有し、また同業の銀行業からの転進組として業務にも精通していたことから漸次シェアを高めてきました。 今日では当社は日本における信用リスク計測システム、統合リスク計測システム、オペレーショナルリスク算出需要の大半を担う立場となっています。 ところが一方でこの10年間は日本の金融業界が著しく低迷した時期でもありました。 長く好況を謳歌した北米金融業界にしましても昨年は大幅なリストラの渦中にあります。 新BIS規制も崇高な理念よりも政治的な妥協の産物に変質、今では本質的リスク管理強化ではなく単なるコンプライアンス対応として市中では認識されており、こうなっては関連するシステム開発需要を強く支えるものではありません。 こうして金融リスク管理システムの市場規模自体は1995-1997年頃にピークをつけた後は漸次縮小傾向にあり、現在ではピーク時から一桁小さい市場になったとみられます。 当社の好業績の裏には、他の参入企業、SIベンダーと海外勢の市場撤退がありました。 ここ2、3年の間も海外勢では米KMV、Barraといった老舗企業が買収され、米IQFinancialほか事業売却も相次ぎました。 国内でも金融以外の他業態からの新規参入がありましたが、こうしたケースは右左もわからないうちに市場から淘汰されていったのが実情です。 大手コンサルティングファームにしましても状況は同様です。 特に一部のコンサルティングファームに関してはモラルハザードの問題もあって、いくつかの米系投資銀行と同様に市場からは大変手厳しい評価を受けています。
全般的な市場低迷のほかに日本市場の特徴として指摘できるのは、この分野における銀行セクターのシェアが相対的に小さくなり、生保、損保のプレゼンスが増していることです。 これは、1990年代前半までの都市銀行がこの分野への投資に積極的で相対的にノウハウが高かった状況に比べれば、対照的な変化です。
今期の方針
市場の現況は構造要因と循環要因が重なった谷間の底のようなものです。 昨年度後半以降に若干の需要回復傾向はみられるものの、当社のような専業に近いシステムベンダーにとって選択肢は限られており、方針を誤れば致命的にならざるを得ません。
そこで同業に近い他社、主にSIベンダーの動向を見ますと、金融系システム事業の低迷をカバーするべく下位業態へと降りて営業していくのがひとつの流行のようです。 これはベンダーの遊休人員活用の観点からも合理性のある選択肢です。 この戦略の要は拡販効果によるコスト逓減であり、市場さえ獲得できれば単純に成功することでしょう。 しかしながら、当社にとってこの選択肢を選ぶのは難しいと言えます。 第一に、当社は難しい既存顧客を上位業態に抱えているため事業拡大に伴ってコスト重視でおろそかに扱うなどということができません。 第二に、こうした戦略に必要な遊休人員など最初から抱えておりませんし、中途半端な採用はやりたくないという方針で参りましたから恒常的に人員稼働率が高い、要するに忙しすぎるという悩みを持っています。 第三に、この戦略は失敗した場合の撤退コストが高すぎます。 下位業態と言葉では言いましても金融機関の規模が小さいだけであって、事業の複雑さは大手と何ら変わりないところが少なくありません。 したがって顧客が開発に回す予算が小さすぎるか、あるいは目論んだ拡販に失敗したならば、維持コストをカバーしきれずに容易に採算点を割ってしまうわけです。 たとえ初年度は良くても多年にわたる負債に転化してしまいがちです。 これが大手ハードウェアベンダーであれば顧客に対して強くでて箱物の追加受注、あるいは公共系であれば随意契約を迫る奥の手によって回収も場合により可能です。 また最大手級のSIベンダーであれば販売不振に伴うサポート打ち切りという我が儘も通るかもしれません(実際、最近でも市場系システムでそうした事例がありました)。 しかし、パッケージソフトウェア事業単体の我々にはこうした手段はないのです。 ゆえに過去この選択肢を選んだソフトウェアベンダーはその多くが自転車操業化してしまい、技術力もどんどん落ちていくというコースを歩んでいます。 まとめればこの選択肢は中堅以上のSIベンダーあるいはコアとなる技術力を持たない委託開発または人材派遣主力のソフトウェアベンダー向きということになるでしょう。
下位業態への展開と類似した戦略に多品種展開が考えられます。 当社のようなソフトウェアベンダーにとってもこの選択肢は考慮に値します。 しかし、この選択肢も見送りたいと考えます。 その理由は必然的に単体受注価格が低下してしまい、開発戦力も分散、品質低下という帰結になりがちだからです。 この選択肢を選んで妙味があるのは短期開発でしかも顧客サポートも簡単に打ち切り可能なコンサルティングファームであって、長期にわたる製品メンテナンスを旨とするパッケージソフトウェアベンダーではないでしょう。 当社がこの選択肢を選んだ場合、必然的にソフトウェア業からコンサルタント業へと業種転換してしまうと思います。 これは実現可能であると思いますが、我々はそのために創業したわけではありません。
当社が現在選択しようとしているのは第三の選択肢、付加価値による製品展開です。
当社の競争力の源泉は「大規模シミュレーション」、「高速計算」、これに加えて金融業界出身という「業務経験」と言えると思います。 これまではリスク管理、特にバリューアットリスクの算出に強みを発揮してきた当社ですが、巨視的に見ればバリューアットリスクもバランスシートシミュレーションの一分野に過ぎません。 当社の顧客である金融機関からすればBasel II対応、そしてリスク管理業務が重要であることにまったく変化はありませんが、これはこの種のテクノロジーを狭義に捉えた場合であって、この分野の外縁にはより良い経営上の選択肢を導き出す論理的な手法を開発するという命題が存在します。 これを称してALM(アセットライアビリティマネジメント)と呼ぶことがありますが、従来言われてきたところのALMは問題をあまりに単純化しすぎて実態に合わないこと、変化する業務スタイルに取り残されてすぐに陳腐化してしまうことが弱点です。 ALMを巡る幾つかのパラダイム、例えば資産負債最適化、TP(トランスファープライシング)、原価計算、といった問題も非常に制約された条件下で追求されてきたのが実情です。
大規模シミュレーション・高速計算を得意とする数値計算屋である当社から見れば、この問題の一端はすでに解決済みです。 すなわち、対象が数百万件を超えるようなシミュレーション型ALMは、日常的に数十万件のトランザクションを100,000回の多変量モンテカルロ計算によってすでに計算しているわけですから十分に射程圏内です。 わずか5年前には1週間の計算を数時間に短縮したとして驚かれた当社のCreditBrowserも、今日では100,000回のシミュレーションを何パターンも同時計算して結果を見るという使い方が普通になっています。 もちろん一般には障害とされるこの計算量の問題は、SASやExcelに頼る金融機関内開発者や、アベレージなスキルのシステムベンダーをまだまだ苦しめることでしょう。 しかし問題の本質はこれではありません。
我々が真に問われているのはBasel II対応のような小手先のコンプライアンスではありません。 実践面、この種の技術が何に役立つかです。 確かに我々の製品がスピードメーターとして機能することはわかりましたが、経営戦略立案に発展できないとすれば自ずから用途は限られます。 近年の金融理論やシステム技術への冷ややかな視線、あるいは新BIS規制そのものへの否定的意見の一端はここにあります。 ここに本質的なブレークスルーをもたらすとすれば、業務実態の複雑さを記述できるだけの柔軟性を持ち、業務計画を実状に近い精緻さでシミュレーションし評価可能なシステムであって、これはまさに企業活動そのもののモデル化になります。 特に大手銀行はもちろんのこと、長期性負債を抱える漢字生保や大手損保のモデル化は最後の難関になることは間違いなく、この問題に比べればいくら「高等数学」と言ったところで金融モデルなどまさに玩具のようなものです。
大変な難易度ではありますが、当社は研究開発に生きる企業であり、挑戦し続けなければ生き残れない宿命にあるのですから、構えてやっていきたいと思います。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、知的所有権関係と開発プロジェクトのリスクです。 知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。
そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物が譲渡されるようにしております。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行