概況
前会計年度(2001年4月~2002年3月)は、売上高前期比24.8%増と大変良好な期でした。 1998年7月の創業以来これまで増収増益を4期連続して記録したことになります。
申し分のない決算内容であったのですが、内容をつぶさに分析しますと手放しでは喜ぶことができません。 詳細は後述致しますが、(1)受注・回収の期ずれ、(2)為替変動の追い風、(3)競合他社の自滅傾向、など自社努力以外の要因が働いた結果であるとも解釈できるからです。 この年度を通じては、当社が属する金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)の開発関連業種の業況は概して悪化傾向にあり、当社のような好決算は例外的です。 また会計数字はともかく実感ベースでは、前年度よりも厳しい業況と感じられました。 その影響は、システムプロジェクトの平均的な資金回収期間が約1年であるために、今2003年3月期に反動として財務面に表れてきます。
こうした理由から2003年3月期については売上高3億円台前半まで落ち込むとの減収減益決算を予想しております。 もちろんこの予想は会計年度開始早々の着地予測であり、また出自の関係でどちらかといえばいつも保守的な予想をしがちな当社経営陣の見方ですから、予測の確実性が高いとは申し上げられません(注1)。 さらに、2002年に入ってからは受注回復の兆しもみられます。 したがって年度後半からの回復、すなわちやはり資金回収期間1年のタイムラグを置いて2004/3月期あたりのリバウンドも十分考えられます。 しかしながら当面は不安材料の方を重視し、人件費を除いて、投資抑制基調を継続したいと思います。
そのほか、資本面については好業績がストレートに反映したおかげで純資産は順調に増加、仕入れがないという当社の特徴もあって2002年3月末の株主資本比率(自己資本比率)は90.1%に達しています。 設立当初からの無借金経営にも変更はありません。 高額納税法人である点を除けば社外流出は極力抑える方針であり、無配当を継続しております。
当期売上高
582,995,332円
昨年度の売上高は、主力の信用リスク管理システム製品 CreditBrowser と、CreditBrowser の上位に位置し市場リスク管理を統合するシステム製品PortfolioBrowser、格付けスコアリングシステム製品 ScoringBrowser が主たる貢献要因となっています。 すなわち、当社開発の金融リスク管理システム製品の販売収入が当社売上の大半を構成しております。
当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。 外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しません。 販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
金融資産については安全性と流動性を重視し、普通預金、郵便貯金、政府債に分散して保有しております。 MMFを含め利回り保証のない短期金融資産、定期預金、運用目的の長期資産、節税目的の保険資産は一切保有しておりません。 固定資産は大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
2002年3月期における特記事項として、金融機関取引の整理を行い、流動資産の一部については政府保証の郵貯振替決済口座に移動いたしました。 またペイオフ解禁ならびにインフレ懸念に対する備えとして保有資産の半分弱を米短期割引国債(T-Bill 3M)にシフトしました。 このため、期末の円/ドル為替水準の関係で為替差益がかなり出ており、収益が押し上げられました。
今期についても、金融情勢、国際情勢を睨みつつ安全性重視で運用する方針です(注2)。 保有資産に占める外貨比率は高水準のままで維持する方針ですから、新年度も日本円建て決算に対する為替レートの大きな影響が予想されます。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 228,942,750円 (2002年3月決算後)
資本勘定の228,942,750円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号 25295。 登録年月日平成11年2月28日。 当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切ありません。
設備投資の状況
昨今の金融機関の合併に伴い計算対象となるデータ量が増加、各金融機関への支援能力維持のためには、自社保有システムの強化が急務です。 また、設備陳腐化は研究開発の妨げです。 耐用年数の残るコンピュータシステムであっても1~2年経過した程度で積極的に除却を行い、新規に買い換えております。
2002年3月現在、テラバイト級の容量を持つ並列CPUのUNIXおよびWindowsサーバー機を多数保有しており、開発および顧客のバックアップに備えております。 昨年度中においては、新規購入分はすべてPCサーバーでした(注3)。
業務環境
当社の特徴
当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。
当社は業種分類的には情報サービス業に属しますが、非常に専門性の高い分野に特化していることから事業特性としてはコンサルティング業に類似しています。 人材も金融および研究者からの転向が多く、いわゆる情報サービス系企業の雰囲気とはかなり社風が異なります。
金融リスク管理システムをひとつの産業と見た場合、当社と類似した企業は北米および欧州には多数ありますが、日本では大変珍しい存在です。 その最大の理由は、金融リスク管理システムの分野は、本質的に金融業界、特に先進的な金融業界に対する随伴産業ですから、地場の金融業が強くなければ成立が難しいためです。 我々自身も例外ではありません。 謙虚に申し上げて、国際競争力のあった1980年代末の邦銀からのスピンアウト組と考えていただければ間違いなく、その意味では教育を施してくれた金融機関に対しては足を向けて寝られません。 ご存知の通り、1990年代に入ってからの邦銀は著しく地盤沈下しましたから、戦略的に育て上げた人材も多くは外部に流出しています。 そうした人材の大半は高給をもたらす近縁異業種に転職しており、起業リスクをとった方は少ないため、日本国内では後続企業もなく当社は現在に至っております。 日本市場では他のパターンとして金融業以外から、主にシステムベンダーやコンサルティング業からこの分野に参入した例もないわけではありません。 しかしながらそうしたスキル面で劣後した企業が技術的落差を後から埋めるのは容易ではなく、単なる委託開発業に転じるなどして視界から消え去っています。 また、日本市場にはユーザーに比べてシステムインテグレーター(SI)の産業支配力が大変強いという特徴があります。 これは国策的に産業保護されてきたというコンピュータ産業の歴史的事情によります。 しかし、この分野のハードルは非常に高いために最大手のシステムインテグレーターでさえ自社開発力はなく、当社や海外の同業者にとってシステムインテグレーターは単に販社の位置づけであるに過ぎません。
需要動向
この10年ほど金融リスク管理システムの分野はBasel II、いわゆる新BIS規制を念頭に走ってきました。 最近までの当社の好業績もこれを映したものです。 過去を振り返りますと、1995-1997年頃、当時ホットであった市場リスク規制に対応したシステム開発が一つの山場でした。 その需要盛り上がりが大変著しかったため、次にテーマとなった信用リスク規制対応のシステム開発をターゲットとして1997年頃から参入企業が相次ぎました。 ところが信用リスク規制のシステム需要は市場リスク規制のそれに比べて遥かに規模が小さく、しかも難易度が非常に高かったために、参入企業の多くはすでに撤退しているのが実情です。 現在、Basel IIは2006年末を目標に作業が進んでおります。
こうした流れの中、当社は1998年の設立当初から大手金融機関の全与信件別をフルモンテカルロで計算するという当時では世界的にも唯一の製品を有し、また同業の銀行業からの転進組として業務にも精通していたことから漸次シェアを高めてきました。 初期のマーケットにおけるライバルは、加アルゴリズミックス社と日本IBM社の共同マーケティングでしたが、結局このチームは宣伝を裏打ちする製品を出荷できませんでした。 その後も国内および海外のシステムベンダーから数多く挑戦を受けましたが、最終的に技術力勝負となって当社が生き残る形になりました。 今日では当社は日本における信用リスク計測システムの大半を担う立場となっています。
もちろん、信用リスク計測システムは金融リスク管理の一要素に過ぎません。 そのほかにも信用格付け、市場リスク、投資運用、オペレーショナルリスク管理、ALMなどの業務があります。 信用格付けの分野では当社は帝国データバンクとの共同研究を進め、製品名ScoringBrowserを出荷しております。 しかしながら、この分野は国内・海外ともに参入多数な上にノウハウも細分化していて混沌としており、米KMV(Moody’sが買収)が海外与信関連で多少強い程度でどの会社もニッチに過ぎないというのが実情です。 また、市場リスクについては日本では銀行業から約5年遅れてブーム化した証券業におけるValue at Risk案件と、ある巨大銀行グループの件で加アルゴリズミックス社が頑張っていたぐらいが2-3年前目立った程度であり、主力の更新需要は盛り上がっておりません。 そのほか、オペレーショナルリスク管理システムは「永遠の明日の産業」といった感想であり、システムベンダーが専業で担うのはほとんど困難と思われます。
全般に華々しさの欠ける日本市場では、潜在市場が縮小するにつれて敗退する企業が相次ぎ、踏ん張った当社に需要が集中したとの側面は否定できません。 逆に当社にしてみれば大変忙しい時期を過ごしたところ、気がつけば誰もいなかった形となりました。 最近、日本国外でも景気が減速して信用リスクがテーマになっています。 おかげで海外からの製品マーケティングチームが日本に時々入ってまいりますが、内容的に周回遅れの感は否めず中味も乏しくて盛り上がりにはつながっておりません。 逆に当社にとっては海外、特に北米市場に進出し、加アルゴリズミックスを日本国内で叩いた時と同様のパターンを繰り広げるという戦略もひとつの考え方ではあるかとは思いますが、海外ベンダーの東京での惨状を見るにつけ気後れするというのが本音です。
開発方針
以上のような見方はシステムベンダーから眺めた論理であり、当社の顧客である金融機関からすればBasel II対応、そしてリスク管理業務が重要であることにまったく変化はありません。
第一線から近年感じられるのは、金融理論やシステム技術への嗜好が減退しており、実践面、何に役立つかに関心が向かっていることを指摘できます。 これは、決して理論軽視ということではなく、金融機関のスキル向上の裏返しのように思えます。今時、コンサルティング会社にまるめこまれるような金融機関は、少なくとも地銀以上に関する限り珍しくなり、日本経済新聞に踊らされるタイプも見なくなりました。 コンサル各社も、「有名な××ビジネススクールを出た高度なスタッフが提供する高度なノウハウです」式のイメージ商法のままでは、逆に浅薄さを見透かされて思い通りにならないようです。
こうした中で、保守期間までを通じて長期にわたる責任を請け負わねばならない当社は、顧客サポートにより注力するとともに基本的な部分でのわかりやすさを強調していく必要があると思います。 より具体的に申し上げればValue at Riskも財務シミュレーションのひとつのパターンに過ぎないと認識して、より汎用的なALMシステムの方向を目指しています。 もはや信用VaRも市場VaRも機能の目玉ではなく単なる枝葉に過ぎません。 幸いにして開発資源を振り向ける余裕があり、最初のお客様も決定しておりますので、今期の最重点項目として注力する考えです。 さらにBasel IIについては、現行CreditBrowser、OperationalRiskBrowserと絡める形で今期中から順次対応していく方針です。
日本におけるシステム産業の実態
特殊性の強い当社でありますが、顧客である金融機関以外におつきあいのある企業としては、システムインテグレーター各社、コンサルティング各社があります。 中でも日本のシステムインテグレーター各社の日ごろの生態については、金融業から転じた者としては並々ならぬ関心があります。 当社の営業取締役はそのうちの一つ(旧DEC、現HP・コンパックコンピュータ)からの出身ですから空気のような物に思えるらしいのですが、私自身はとても新鮮に接しております。
現在、日本の情報サービス業はインターネットブームの頂点を脱したところにあり、全体で見れば相変わらず他産業が羨むような好調ぶりです。
とはいえ、製造業(平成12年度の売上高シェア22.6%)に次ぐシェアを誇る金融・保険業向けシステム(同17.5%)の分野では明暗こもごも、むしろ良くないという声も多く聞きます。 金融機関統合関連や、証券系バックオフィスシステム(T+1やSTP対応)、CRMなどの分野が好調である反面、金融機関の経営悪化に伴って案件の小口化が進んでおり販売単価は下降気味ということです。
こうした状況下で無理に売上げを伸ばそうとすればまず嵌るのが、(1)案件単価の下降、(2)利ざや圧縮を補うべく販売拡大策を実施、(3)人員数が増大し平均スキルは低下、(4)損益分岐点上昇、(5)競争力が失われて苦境へ、というパターンであろうと思います。 これは情報サービス業における前回不況1993-1995年にもよくみられたケースです。 日本の情報サービス業は表のハイテクイメージとは裏腹に官公需に頼る面も強く、ゼネコン体質が強固な業界です。 トヨタ、ホンダ、ソニーなどの国際競争にさらされて鍛え上げられた日本を代表する企業群とは大きく様相が異なり、日本のシステム企業の多くは大手・中小を問わず実質的に人材派遣業か海外ソフト・ハードの商社に過ぎません。 特異な技術を失いそうした「業界秩序」に組み込まれてしまえば、ゼネコンである大手企業は丸投げにより利ざやを確保できても、2次3次発注を請ける側の中小システムインテグレーター企業には逃げ場がありません。 そこで次の図のようにミドルクラスの企業にとってきつい経営局面が待っています。
図から読み取れるのはU字型のカーブ、つまりもし拡大を目指すならば顧客のクレームなど目もくれずに遮二無二巨大化を目指す一手であるということです。 実際にそういった企業が近年ありました。 こうして、情報サービス業の売上高は伸びているものの、事業所数は趨勢的に減っています。 とはいえ元々情報サービス業界の外から来た我々としては、こんなテクノロジーを軽視する業界体質には抵抗があります。 CSKを創立した大川功氏の時代ならばともかく、今からそんなことをして楽しいとは思いません。 無理はせずに「急速な規模拡大=必然的に起こる平均的スキルの低下」という事態を避けて着実にやっていきたいというのが現在の心境です。
なお、日本の国内大手システムインテグレーターとは、情報交換や営業面ではともかく、開発の面では引き続き距離を保つ方針です。 その理由については若干説明を要すると思います。
金融業に比べれば、情報サービス業は優秀な人々が向かう場所ではありません。 学生時代の成績優秀者の就職先を思い起こしていただければわかると思いますが、「理科系の優秀な博士号取得者が一杯いるのだろう」、などというのは大いなる勘違いです。 そういう頭一つ抜けた人は大学か研究所か商社か金融機関に就職します。 採用企業側は看板を「△△コンサルティング」などに付け替えたり、人気の高い調査研究部門と経営統合して「××研究所」、「○○総研」など名乗り、イメージアップの努力をしておりますが、優秀な人材の調達に関する限り効果は限定的です。 その一方、慢性的な人手不足のおかげで採用基準は甘く、落ち込みが激しいハードウェア部門などから実質的失業者が配置転換されるなどして、俄か資格やJava言語の知識など植えつけられた人材が多数入り込んでいます。 まさに「悪貨は良貨を駆逐する」状況が現出、ますます平均技術レベルが低下する日本の情報サービス産業です。 金融理論や業務などは当然のこと、システム技術についてさえ話がなかなか噛み合いません。 このため、当社はややこしくなる開発関連ではシステムインテグレーターとの接触を極力避け、営業面でのみ摺り合せる方向で済ませています。 その種の営業協力面では当社と他社との関係は全方位的に良好であり、システムインテグレーターも大変有能です。
昨年から今年にかけて、日本では大規模なシステムトラブルが相次いでおりますが、その背景には少なからずこんな事情があることをご理解いただければと思います。 プロジェクトマネジメントの失敗だけが開発トラブルの原因ではありません。 派手なCMを流して外見は格好良さそうなシステムインテグレーターもなかなか苦労しているのです。
開発体制について
当社だけの事情を申し上げれば、親密でスキルのあるシステムベンダーが外部にあり、低スキルで済む仕事はそこに外注をお願いし、当社は専門性の高い仕事に集中できれば一番理想的です。 ところが前に述べたような背景があるために、現実にはどこと組んでもほとんどこれは実現困難であることが、最近ようやくわかってまいりました。
当社自身の努力として社内分業体制を進め、PortfolioBrowser, ScoringBrowserといった基幹製品も、技術者、テスト担当者、ドキュメント作成者などに機能分割するところまでは開発工程を確立しております。 また、もともと本業であった関係で、金融機関の内部事情に鑑みた業務分析、設計、企画はお手の物と言えるでしょう。 そこで困るのが、どのプロジェクトでも必ず付随するデータベース構築などの周辺業務です。
残念ながら、現在の国内システムベンダーの内部事情からすればデータベース構築も「ローテク」ではありません。 外注を考えた場合、問題を困難にしているのは会計・制度など業務の専門用語がまるで相手に通じないことです。 同じ理由から海外のソフトウェア会社を外注に使うという選択肢もまた魅力的ではありません。 少なくとも客先との打ち合わせが必要なのに本国で仕事をしたいというような高飛車な相手では協業は無理ですし、守秘義務契約も障害になります。 日本のシステムベンダーの事情について先に記しましたが、海外のシステムベンダーも決してよいわけではなく、それどころかもっと性質が悪いケースも多いのです。 仮にプロジェクトを一緒に進めるベンダーが倒れたりすれば当社も被害を受けかねません。 結局、当社がデータベース関係の仕事を親密顧客から依頼を受けた場合、プロジェクトを成功させるためには仕方がないとあきらめて受注するケースが増えています。
顧客の当社に対する期待は、当社のスタッフを使い他の当社製品と同じ高品質で成果物を納品するところにあると思います。 わけのわからない外注先への丸投げなどはできません。 今はまだ余裕があるにしてもいずれは、(1)設計とプロジェクト管理は当社内で行い強固にハンドリング可能な下請けを使う、(2)あるいは当社自身の雇用を増やして専門のデータベースチームを設置する、など対応策を考えなければならない局面が出てきそうです。 しかし、どの選択肢を選ぶにしても相対的にローテクなデータベース周りの仕事は将来にわたる経営効率の低下要因であり、今後の検討課題です。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、知的所有権関係と開発プロジェクトのリスクです。 知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。
実際、昨年度中には実質的に当社側から見送った案件がありました。 筋が悪くなる典型例は、ハードウェアベンダーの支配力が強過ぎてユーザーが制御できないケースです。 近年はCPU本体の価格低下が激しい一方で、NASやSANなどストレージ関連の利益率が高いために、大変強引な箱物ハードウェアセールスを見かけます。 そこでソフトウェア面を無視した「大規模統合サーバー計画」といった方向に発展し、後でいろいろなトラブルに苦しむというワンパターンになります。 ユーザー企業の力で開発プロジェクトを制御できないならば、その開発リスクは当社が請け負えるものではありません。 当社の別の顔としてこの種の事態は極力回避するべく悪い営業がついていないかどうか情報収集には努めております。
そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物が譲渡されるようにしております。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行
(注1) 業績予想について
我々が開発するのは金融機関のリスク管理システムであり、お客様もお堅い金融機関が主体です。 さらに言えば当社経営陣の出身も大変お堅い金融機関と監査法人です(営業担当取締役のみ例外)。 このためか経営面も審査マン的で、設備投資や雇用拡大に関して消極的になる傾向を感じます。 費用を投じないので利益率はとんでもなく跳ね上がり、経営経験豊富な方が見れば「なぜこのような決算にしてしまうのか、なぜ明日への投資に振り向けなかったのか」疑問を持たれるかもしれません。
この点、たまに接触を求めてくるベンチャーキャピタルや証券系の訪問者の皆様とはまったく意見の噛み合わないポイントです。 しかし、1980年代のバブル経済をリアルタイムで経験した我々としては、ベースラインの悲観論にそれなりの自信がありますし、審査部系のお客様の目も光っているので如何ともし難いのです。
いつも説明の繰り返しになりますから、この長い説明文を必ずお読みになるであろうその筋の皆様に申し上げておきたいのですが、いくら過去の業績が良いといっても私どもの経営イメージはある程度のトレンドラインを境にして中心回帰的に業績変動するというようなつまらないシナリオです。 したがって当面は少なくとも資本ニーズも資金ニーズも当社にはありません。
(注2) 資産運用方針について
投資理論(portfolio theory)の定義によれば、予想外の出来事、”surprise”がリスクです。 実現し確定した状況ならば、それがどんなに悲惨な状況であってもリスクではありません。 この話題はあなたが象牙の塔の世界の住人であるならば、「保有期間…を前提とすれば、リスクとリターンには…の関係があって、…こんな分散ポートフォリオを組みましょう」、といった風に話は進んで終わりです。 しかしあなたが紙の上のリスクではなく、本物のリスクと共に暮らすビジネスマンや主婦ならば話の筋書きは大きく異なります。
現実のリスクを相手にする時、時間と前提条件を考慮しなければなりません。 時間概念には運用期間と流動化期間というまったく異なる2つの様相があります。 現在、運用期間を考えない投資理論はありませんが、流動化の期間とコストをきちんと説明した投資理論は存在しません。 流動化期間とは、あなたの資産を清算するのにどれだけの時間がかかるだろうか、あるいはそもそも清算出来るのだろうかという心配のことです。 前提条件とは理論が「品質保証」される条件です。 こちらは一見して明白なものとそうでない暗黙の仮定が混在しているといったところでしょうか。 明白な方は「無限の流動性」とか「無裁定価格(arbitrage free)」など、大抵は論文の先頭に大きく書いてあります。 逆に明白でないのは、政府が制度を変更するとか、市場が閉鎖されるとか、あなたがつきあっている証券会社が不正を行っているとか、運用する当の本人の破産については考えないとか、実世界で起こるもろもろの悲劇です。
長々とした説明はこの文章の趣旨ではありません。 端的に言えば、「あなたは長期のライフプランを前提とした保険商品や最終利回りを高く掲げた運用商品が往々にして良い結果をもたらさない理由を説明できますか」、という問いに尽きます。 この高度な技術は金融商品の販売側(sell side)に多大なる利潤をもたらしており、第一線の証券営業、FP(フィナンシャルプランナー、要するに営業員)、保険営業のスタッフが標準装備するテクニックです。 別に1998年に破綻したヘッジファンドLTCMを持ち出すまでもなく、高名な経済学者が相手であっても簡単にひっかけられる株屋の高等技能ですから、すぐに理解できなくても恥じることはありません。 わからなくても研究はできますから安心してよいと思います。 他方、その理由をきちんと説明できたならば、あなたは少なくとも金融理論のPh.D.取得者以上にリスク管理に精通していると考えられます。 すでに成功されていることと思いますが、自信を持って営業に励んでください。
こんな風に軽口を叩きたくなるくらい、私自身は消費者保護の観点からなぜこの種の基本を学校教育の場で教えないのか、数理系や経済系の金融学会関係誌を見るたびに悲しく思っております。 我々が財務上特に念頭に置いているリスク要因とは、当社が位置する国である日本リスクと、世界の覇権国=米国リスクです。 運用期間については、仮に新規受注が皆無でも数年は存続可能という当社の財務状況ですのでかなり長い(=1年超)運用期間を念頭に置いています。 他方、どのようなコンティンジェンシー状況が生じるかわからないのが企業経営の宿命ですから、流動化期間の方はきわめて短期(=1週間以下)を想定しています。
(注3) PCサーバーの活用
近年のシステム開発の特徴として、安価なPCサーバーの活用により数年前ならば想像もつかないほどの大規模処理能力を備えることが可能になってきたことがあげられます。 現在、高価な商用UNIXサーバーを採用する理由があるとすれば、それは保守のアウトソーシングが主たる動機と考えてよいでしょう。 要するに高いお金でサービスを買うということです。 よく高い信頼性が商用UNIXサーバー採用の理由としてあげられますが、それは低マージンのPCサーバーでは保守サポートが十分行われないことが原因であり、本質的な故障率はむしろ汎用部品で作られたコンピュータの方が低かったりします。 このため、商用UNIXサーバーさえハードウェア組み立てから自社内で行うことが常識である本格的なソフトウェア開発会社としては、コスト的に見てPCサーバーが優れた選択肢となるのです。
ただし、PCサーバーの方がコストメリットが高いというのは、RAIDシステムもネットワークも自前で手を入れる能力を備えた開発会社ならではのことであり、一般的なユーザー企業では必ずしもそんなことはありません。 また、PCサーバーと言っても私どもが使用するクラスではパーツは商用UNIX機と大差なく、大容量電力を消費し、熱風を吹き出すモンスターマシンです。 熱風と騒音のことを思うと、経営方針としてのコスト抑制などほどほどにして、インテリジェントビルに移りたいと時々思います。
なお、米Intel社の新しい64bit CPUであるItanium2機を、チップセットとOSが安定した段階で試そうとしています。 私どもは別の面でスピード狂の数値計算屋ですから、FMAなど行列ベクトル演算に不可欠なハードウェア機構を備えたマシンに対しては目がありません。