概況
前会計年度(2007年4月~2008年3月)の売上高は742,841,500円(前期比1.8%減)となりました。
例年この決算概況欄で申し上げておりますように、当社は非上場会社かつ無配当(=利益は社外流出しない)であり、創業から10期連続黒字決算で自己資本も厚い(=つまり内部留保の積み上げは必要ない)企業です。 仮に当社が上場会社であれば利益増は配当増(=利益は社外流出する)で良いことですが、人目さえ気にしないならばはっきり申し上げて損益ゼロが理想なのです。 当社財務の特徴は単純さ、非常にわかりやすい(=会計上の操作性がない)経営です。 当社は創業以来黒字基調で累積損失がなく、取り崩しあるいは評価替えが必要な在庫がなく、評価損を出すような固定資産も、のれん代償却を要する買収会社も、売上や利益付け替えを出来るような連結対象会社も非連結関連会社もなく、100%自社開発で外注先も存在しません。 またシステムプロジェクトの平均的な資金回収期間は約1年であり、これが運転資金の需要額です。 これほど単純な会社ですから、1年先の出来上がり業績を概ね予想できます。
なお、民間企業信用情報会社に対する当社からの財務情報開示は2006年3月期決算を最後にして行っておりません。また民間企業信用情報会社から今後接触を受けたとしても財務情報の開示は致しません。 この方針は、2006年4月1日の法改正「所得税法等の一部を改正する等の法律」施行により法人税を含む公示制度が廃止されたことに合わせる形で実施しました。 したがって、株式会社帝国データバンクと株式会社東京商工リサーチなどの民間調査会社から得られる当社の財務情報は各社による推定値か、または本欄に記載された数値およびグラフから転記されたものです(「コラム: 格付け冬の時代到来? – 企業信用情報データベースの現実」参照)。 当社と直接取引のあるお客様、取引をご検討のお客様に対しては、当社財務諸表を個別に開示致しますので直接ご請求くだされば幸いです。
当期売上高
742,841,500円
当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しないため、販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
当社の資産の大半は現預金です。残りの資産も大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は超短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
金融資産については安全性と流動性を最大限に重視して運用しております。 具体的には、1)期中は日本国の円建て政府短期証券(3ヶ月物)、2)期末は複数の国内金融機関に分散する形で普通預金、の形で保有しております。 定期預金、運用目的の長期資産、投資信託、REIT、節税目的の保険資産等は一切保有しておりません。 また海外の証券会社、商業銀行、投資銀行、ファンドとの取引は一切ございません。 今期の特記事項として、ドル建てMMFを全額(3百万ドル)売却いたしました。 このドル建て資産は「2002年3月期の決算概況」の「資産の状況」に記載した通り、当時懸念された日本国の信用リスクに備えて2001年に購入したものです。 当社保有資産はこの円転の結果、すべて円建てとなりました。 また売却日が偶然にも2007年の最も円安・ドル高の日にあたったため、為替差益42百万円を営業外利益として計上しております。 来期についても引き続き円建てで保有する予定です。 これは現在のソブリンリスクは日本よりも海外の方が高いのが実状だからです。 欧米および新興国のソブリンリスク問題は、2007年7-8月の米国金融市場の混乱で一部顕在化しております通り、信用リスク関連業務に携わっておられる方ならば先刻ご承知かと思います。
ここで「銀行預金と短期国債による安全性重視の運用」に関しては近年の流行語である「金融リテラシー」と関連して疑問を持たれるかもしれません。 左のような「日本人には金融リテラシーが欠けている」的な本や主張をよくみます。 「お金を銀行に預けてるなんてお金を働かせていないのと同じこと」という主張に対して当社は反しているのではないでしょうか。
当社の租税負担率は実に47.6%に達します。 流動比率(流動資産/流動負債)は1215.2%、有利子負債比率は0%(無借金)、自己資本比率(株主資本比率)は92.2%、固定資産比率(有形固定資産/自己資本)1.1%、しかも負債勘定は100%が未払法人税等の流動負債で実質的な負債もゼロという超健全ぶり。 仮にまったく仕事がこない状態になったとしても、計算上は10年くらい持ちこたえられそうです。 シティバンクやモルガン・スタンレーよりも健全な財務内容にして意味があるのでしょうか。 もちろん意味があるのです。 あなたが上場会社に純投資する株主であれば「好業績なら高株価か高配当、倒産しても株価がゼロになるだけ」です。 あなたが転職自由な給与生活者ならば「好業績なら高いボーナス、倒産しても転職すればよいだけ」です。 この場合は「私の勝ちは私の物、私の負けはあなたの物」であり、損益を示すペイオフ曲線が非対称であり、コールオプションを買った状態と等価。米国企業のCEOみたいなもので、どんどんリスクテイクすればよいのです。
しかし、あなたが仮に自営に近い非上場会社の株主であれば「好業績なら高株価か高配当、倒産したら生活困窮」です。 あなたが仮に転職が難しい給与生活者ならば「好業績なら高いボーナス、倒産したら住宅ローンも払えない」となります。 そして幸運はいつまでも続かない。 あなたが仮に転職自由な給与生活者であったとしても、ここに交通事故や大きな病気、離婚・介護・教育、天災といった外部イベントを持ち込んだとします。 すると途端にコールオプションではなくなり、安全ネットが消えるのです。 これがリスク管理の基礎理論(外部イベント、投資ホライズン、非対称性ペイオフ)です。 当社のような技術系企業にとっての正しい経営判断とは、事業リスクそのものがハイリスク・ハイリターンであり、それはこれまでの好業績を考えれば相当にボラティリティが高いと証明されている以上、安全資産(クッション)を厚めに維持しておき、有効フロンティアの最適化点を探るべきだということです。 あるいは事業に振り向ける投資を増やすか、それとも配当してわざわざ実効税率75パーセント(1 – 法人実効税率50パーセント x 個人所得税率50パーセント)の恐怖を味わうかでしょう。
そこまで承知した上でなお当社がヘッジファンドに投資したり、福利厚生の範囲を超える不動産投資を行ったならば、当社のお客様はリスク管理のプロですから「自社のリスク管理もできなくて大丈夫か」と見られる可能性がある、というわけです(「コラム: 財務の健全性諸比率について」参照)。 なお巷の「金融リテラシー」本について付言するならば、それらの本がよくやっている「預金はやめて投信買いなさい」論は、著者自身が先のコールオプション型の社会的強者であると主張しているに過ぎません。 あなたが会社をクビになったら困る程度の人ならば、この種の本の内容は100パーセント嘘です。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 68,179,376円
資本勘定の68,179,376円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。登録番号25295。登録年月日 平成11年2月28日。 このプログラミング等準備金については法令改正(廃止)が決まっており、当社では2004年3月期決算から逐次取り崩しております。 株式保有状況については、当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切ございません。 当社は資本面で中立な企業です。
設備投資の状況
今日のリスク管理は装置産業でもあります。 高い開発生産性を維持し、顧客金融機関のニーズに応えていくためには自社保有システムを強化していかねばなりません。 近年は金融機関の大型化が進んだ結果、顧客保有データと同等規模のテスト環境を整備するだけでも一苦労です。 特に負債サイドALMや日次シミュレーションを実現するためには、多大なハードウェア投資を必要とします。 このため、引き続き高水準の設備投資を行っております。 前期においては、東京工業大学のスーパーコンピュータを利用させていただき、当社製品をご利用頂いているお客様のご協力のもと、最大規模のメガバンククラスでさえALM用の詳細なモンテカルロシミュレーションが実用化可能であることを示しました。 本研究に関する詳細は、公開文書「金融ALM/リスク管理モデルの運営とコンピューティング・グリッド技術の応用」をご覧ください。 本研究は今期も、「戦略分野推進:社会基盤のリスク管理シミュレーションへのHPC応用技術の開発『大規模ALMシミュレーションへのHPC技術の適用』」として採択して頂いております。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、人的リスク、知的所有権関係、開発プロジェクトの3つに整理できるかと思います。
人的リスク
当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、ALM・収益管理、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。 この種の難易度の高い金融系システムを提供する専門会社は、国内的にも世界的にも、金融機関からのスピンアウト組が中心となって設立した会社しか存在しません。 我々から見れば、Moody’s、S&P、Fitch、R&Iなどの格付会社も、マッキンゼー、ボストン・コンサルティング・グループなどの戦略コンサルティング会社も、PwC、E&Yなどの会計系コンサルティング会社もすべて部外者です。プロフェッショナルとはみなしておりません。 ノウハウ面で比肩できるのは一部の投資銀行に存在するインサイダーチームに限られると申し上げてよいでしょう。 こうした事情は金融リスク管理システム専業の海外ベンダーも同じかと思います。
このように専門性が強い分野でありますから、我々自身の士気を保つ努力、より直接的に申し上げれば主要な人材の離散を防ぐ努力が重要です。 この人的リスクに対して創業以来当社がとってきた対策は「主力社員=取締役=株主」とし、この範囲プラス補助的業務で済ませられない仕事は受けないことでした。 つまり弁護士事務所・会計事務所・病院経営に類似した経営を選択することでした。 この対応策の有効性は「会社が上場して自社株を持たせた社員に上場益が行き渡った途端に専門企業から脱落する」パターンが多いことによって逆説的に証明されるでしょう。 とはいえ創業以来すでに10年間です。 このまま次の10年を維持できるとしても、その後はどうでしょう?我々も次の一手を考えていかねばなりません。 それは新しい(多くの場合未熟な)メンバの採用であり、向上心を燃やすインセンティブの付与であり、これまた逆説的に自社製品の容易化・コモディティ化ではないでしょうか。
知的所有権
知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクト
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。 そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物の所有権がお客様へ譲渡されるようにしております。 2005年4月1日から全面施行となった個人情報保護法および内部統制との関連においては、当社内部の情報管理を徹底するとともに、情報流出を防止するべく従来通り社外への開発の外注は行わずに100%内製化を貫く方針で今期も臨みたいと考えます。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行