概況
前会計年度(2005年4月~2006年3月)の売上高は706,247,953円(前期比95.9%増)となりました。 前期決算時の予測で示した通り過去最高の売上で着地したわけです。 このように当社の業績予測が正確なのは、システムプロジェクトの平均的な資金回収期間が約1年なので、当社財務には1年後の業績を概ね見通せてしまうという特性があるためです。
他方、当期純利益については2002年3月期に記録した過去最高額にはわずかに届きませんでした。 その理由としては労働分配率上昇(賞与支給など支払給与増)要因もありますが、最大の原因は納税要因(前期比158.6%増)です。 当社は創業以来黒字基調で累損がなく、取り崩し可能な在庫もない単純な業態で、評価損が出るような固定資産も連結対象会社もありませんから、売上増はストレートに利益増そして納税額増につながります。このため租税負担率は実に47.4%に達しています(利益の半分が納税になるという意味です)。
その他財務項目については、人件費増分を除いた経費水準は前期よりも低下(前期比12.9%減)しました。 人件費増は売上増を支えた従業員貢献に対する報酬の側面があるので捨象して考えるとするならば、この期はむしろ抑制的な経費基調であったと考えております。
当社は設立当初からの無借金経営であり、販売製品は100%内製なので買掛金さえほとんど発生しません。 したがって相変わらず非常に健全な財務内容であり、この期の株主資本比率(自己資本比率)も85.4%と高水準です。 なお、株主資本比率が前の期(94.9%)よりも若干低下したのは、売上倍増による未払法人税の発生(負債の部に計上、前期比477.7%増)が原因です。 このまま来期も黒字基調が続くならば、この未払法人税は翌期に流出します。
今期は引き続き前期からの大型受注案件を消化しなければならない大変忙しい時期にあたります。 このため今期もほぼ同水準の売上高を予想しております。利益面については将来性のある研究開発投資に出来るだけ回して抑制的に運営する方針ではおりますが、当社は自然体での決算着地を心掛けているため対策にも限界があり、こちらもそれなりの高水準となる見込みです。
なお、2006年4月1日の法改正「所得税法等の一部を改正する等の法律」施行により法人税を含む公示制度が廃止されたことと合わせる形で、民間企業信用情報会社に対する当社からの財務情報開示は本2006年3月期決算をもって終了し、当社ホームページ上の情報開示(すなわち本欄)のみ行うことに致しました。 当社との直接取引のあるお客様に対しては、当社の財務諸表開示については従来通り個別に対応致しますので直接ご請求くだされば幸いです。 2006年3月期決算以前の財務情報は民間企業信用情報会社最大手の株式会社帝国データバンクに開示しております(末尾の「コラム: 格付け冬の時代到来? – 企業信用情報データベースの現実」参照)。
当期売上高
706,247,953円
昨年度の売上高には、主力のALM(資産負債管理:アセット・ライアビリティ・マネジメント)製品 Altitude が貢献しました。 また統合リスク管理システム製品 PortfolioBrowser も大きく売上増に寄与しています。
当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。 外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しないため、販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
金融資産については安全性と流動性を重視し、普通預金と円建ておよびドル建てのMMFに分散して保有しております。 定期預金、運用目的の長期資産、節税目的の保険資産は一切保有しておりません。 固定資産は大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は超短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 176,058,250円 (2006年3月決算後)
資本勘定の176,058,250円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号25295。 登録年月日 平成11年2月28日。 このプログラミング等準備金については法令改正(廃止)が決まっており、当社では2004年3月期決算から逐次取り崩しております。 株式保有状況については、当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切存在しません。 当社は資本面で中立な企業です。
設備投資の状況
今日のリスク管理は装置産業でもあります。 高い開発生産性を維持し、顧客金融機関のニーズに応えていくためには自社保有システムを強化していかねばなりません。 近年は特に金融機関の合併が相次いでおり、顧客保有データと同等規模のテスト環境を整備するだけでも一苦労です。 特に負債サイドALMや日次シミュレーションを実現するためには、多大なハードウェア投資を必要とします。 このため、引き続き高水準の設備投資を行っております。
この期においてはテラバイト級の外部記憶システムに接続する上位クラスの64bitマルチプロセッサ計算サーバーを2セット新規に導入し、IA32、x64、IA64、Alphaの各アーキテクチャに対する開発を円滑に進める体制を確立しました。比較の意味で申し上げるならば、当社の計算能力は最大手の金融機関のリスク管理システム環境を軽く上回るものです。
とはいえハードウェアの市場価格は漸次低下しておりますから、経費面における最大の費目は人件費であって、財務上の設備投資が占める割合は僅少です。 これは実質的に人への投資=設備投資という研究開発型企業に特有の体質です。
業務環境
当社の特徴
当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、ALM・収益管理、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。
当社は業種分類的には情報サービス業に属します。 日本は基本的に海外製ソフトウェアを移入する仕事を「システム開発」と呼び習わしているIT後進国ですから、情報サービス業の9割はスーパーゼネコンである大手SIer(IBM、富士通、NEC、NTTデータ、日立などのシステムインテグレータ各社)を頂点とする親請け・2次請け・孫請け・4次請け・・・と連なる重層構造になっています。 このゼネコンを頂点とする食物連鎖=ピラミッド構造は下位になるほどいわゆる3K(厳しい、きつい、帰れない)職場であり、トップ企業とは別世界が広がっており、繁忙を極めながらも近年非常に不人気で実にさまざまな人々が「ITエンジニア」の名で群がる社会の底辺です。
他方、情報サービス業の残りの1割は同じ産業分類の中に無理やり一緒にされているようなもので、ゼネコン→下請けのピラミッド構造とは何ら関係がありません。 「IT系」を名乗る理由もさまざまです。 当社もその1割の側に属しており確かに我々も「ITエンジニア」なのですが、共通するのは「IT系」という名前だけで、社会通念的な「いわゆる情報サービス系企業」の方とは話も合わなければ生態も違うし社風もまったく異なります。
たとえば前者は「ストラップつきのネームカードをぶら下げ勤怠管理されたワイシャツ姿の人々」であり、後者は「一応襟付きが推奨されているが普段着ならばラフなTシャツ姿でも可」といったところ。 前者ならばアキバオタク系の話題でストレス解消していそうな場面で、後者では宇宙論の話題を戦わせていたり次のマラソン大会出場&練習計画を語り合って鬱憤を晴らしていたりします。 また従業員給与の水準もシステム開発各社に比べて大きく上方乖離しており、「いわゆる情報サービス系企業」ではなく金融機関の給与曲線に似ています(むしろ上回っています)。
もちろんこんな事情は当社に限った話ではなくて、R&D型の企業ならば他産業であっても多かれ少なかれ事情は同じだと思います。 日本にはソフトウェア製品を自社開発する企業が少ないために特殊に思えますが、米Googleをはじめ、SASもMicrosoftもAppleも似たような話を聞きます。 創造的な仕事に集中させるために仕事以外の自由度をある程度認めておりホスピタリティ溢れる雰囲気がありそうでいて(米Googleにはプールがあって犬の持ち込み可だそうです)、実は内部の生存競争は「いわゆる情報サービス系企業」よりも遥かに過酷だということでしょう(同じく米Googleを例に出すと採用試験問題が整数論という有名な話がある)。 これが当社の場合は、事業特性としては法律事務所ないしはコンサルティング業に類似しています。 人員的にも金融業または研究者からの転向者が主力であり、システムアーキテクトの採用募集も一応してはおりますが、現実には「プログラミング能力だけが売り物です」というタイプの方の採用は行っておりません。 外から見れば、当社の競合先はコンサルティング各社であって、彼らが10年前まで担っていたシステム化案件の組成・コンサルティング・フォローアップ業務を奪い取っているとの見方もできるでしょう。 ですから、コンサルティング会社の右も左もまだわからない新米社員から勘違いな電話を頂いたりすると複雑な気分になります。 ちなみにその種の羽の生えそろわないような新米コンサルタントには何回も遭遇してますが皆すぐに首になっている様子であり、そういう意味ではコンサルティング業界は我々よりも過酷な世界であるらしく、さらに付け加えるならば彼・彼女らの上司であるコンサルティング会社のパートナーやシニア・コンサルタントと我々はとても仲良しだったりします。 それでいてなお、我々は「システム開発」の企業なのです。
需要動向
当社のルーツである銀行業に限るならば、いわゆるBasel II(新BIS)対応も峠を越えたことから金融リスク管理分野の需要は頭打ちの状態にあります。 そこでここ2、3年ほど当社は、生命保険、損害保険業態に関しては、会計制度の見直しがバリューベースのリスク管理への志向を促しており、引き続き一定のリスク管理システムに対する需要があることから、銀行以外の分野への展開を目指してまいりました。 それが果実となって現れ始めたのが今期ではないかと思います。 生命保険、損害保険業態への展開にあたっての最大の障害は、膨大なキャッシュフローと複雑なリスクファクターが莫大な量の計算を要求する点でした。
具体的に申し上げますと、銀行のポートフォリオは大半が比較的短いマチュリティーであったり半年利払いであったりするキャッシュフロー数の少ない金融商品によって構成されています。 一見、市場部門で扱っているデリバティブの計算が大変に思えるかもしれませんが、そういう取引は概して数も少ない上にキャッシュフロー数も少なく信用リスク管理やALMで問題とされる長期のタイムホライズンで考えるならば捨象して計算することも可能です。 銀行ポートフォリオにおける最大の障害は毎月利払いで30年ものマチュリティーを持つ住宅ローンです。 が、大半のケースではそれでもなお市場・信用VaR程度の計算で障害となるような計算規模にはなりません。 一方、保険商品の場合はマチュリティーが生涯現役期間に対応する長期にわたり、毎月利払いである上に変動ルールも住宅ローンに輪をかけて複雑、しかも自社配当すなわち一度ポートフォリオ全体を決算してから得られる余剰資金を想定しないと計算できないような商品まであります。 これはとてつもない計算量であり、我々は現在も格闘しているわけです。
つまり、①リスク管理システムの計算能力高度化が、②適用可能分野の拡大につながり、③需要の拡大を招く、その産業サイクルの中で我々は活動しているということでしょう(下図)。
正直に申し上げて、当社の創業当初は「BIS規制対応もいつかは収束に向かうからリスク管理システムへの需要も同時に終わりを迎えるだろう」との悲観シナリオを想定し、だからこそ経常的な収益につながるソフトウェアライセンス型のビジネスモデルを基礎にしてこれまで経営してきたわけです。 ところが今に至ってみますとリスク管理の分野は経営シミュレーションへとつながっており、意外にも息が長そうなのです。 これは創業時点ではまったく想定の外でした。
そうしたわけで現在の我々は、我々自身が期せずして新たに開拓した分野から生じた受注残をこなさねばならない、きわめて多忙な状態に置かれているわけです。
今期の方針
当社を外から眺めている方ならば、当社の現在の業績が素晴らしく見えるかもしれません。 最近の新興市場新規上場会社とぜひ比較してみてください。 こうした企業は最初のうちこそ右肩上がりの業績予想を提示したりしますが、所詮は株価対策の背伸びに過ぎない会社も多くて、当社のような業績を結果に残している上場企業は一握りにすぎません。 なお、当社は非上場会社であり上場する計画も当面ございません。
しかし、当社を中から見れば若干様相が異なります。 先に述べた通り当社は極めて専門性の強い企業であり少人数の専門家で固めています。 仕事が増えてきた時、他社であれば単なる増員の話題ですが、我々の場合は希少な数学的あるいは金融のバックグラウンドを持つ人材を探索し採用し教育し、そこまでしても能力的歩留まりは大変厳しいのが実態であり、だからこそ慢性的に人手不足です。 現在の受注水準はレッドアラートとは言わないまでも黄信号であり、売上高7億円の業績は相当な重荷なのです。
とはいえ仕事は仕事であり、泣き言を言う前に粛々とこなしてこそプロフェッショナルでしょう。思えば私も銀行に勤めていた駆け出しの20代は、バブル経済下で労働時間が今よりももっと長かったわけですから。 もちろんこんなのは根性論です。 根性の必要性は認めるものの、それだけで十分であるとは思いません。 合理的に考えるならば年を重ねただけの知恵を上司こそが先に出すべきだと信じております。
昨年度の決算概要の中でも解説した通り、現在の当社にはライバルと言えるほどの競合企業が存在しません(「昨年度のコラム: 減り行くリスク管理専業企業」参照)。 加えて長く続いた不況も終わってシステムインテグレータ各社は今や大忙しの状況にあり、ややこしい手間をかけてまで当社が手がける分野に参入してくる様子はありません。 リスク管理の分野は成熟化が進行して技術的・知識的参入障壁も高く、昨今手軽に採用できるような質の低いエンジニアを使って委託開発案件化できるほど甘くはありませんから、軽い気持ちで新規参入・再参入すれば大手SIerといえども当社のような専業企業の返り討ちに遭うのが目に見えています。
このためリスク管理のシステムプロジェクトを他社とジョイントしたケースであっても力関係はリスク管理専業企業側の優位にあり、事実上SIerの選定からハードウェアの選択に至るまで当社主導で事が進行するのが通例です。 考えてみればこれは大変な強みです。 よく収拾がつかなくなったシステムプロジェクトを「デスマーチ」(死の行進)と呼び習わし、原因は「発注側が仕様を何度も変更するからだ」などというシステムインテグレータの文句がシステム業界誌「日経コンピュータ」に踊っています。 が、その真の理由が、①中味も理解できずに仕事を受注してきた営業がいて、②集めたエンジニアといっても協力企業(=要するに下請けの外注先)が出してきた人材はとんでもない連中で、③その一方マルチベンダーを強いられ理不尽な調整が要求され、④精神的・肉体的に消耗したプロジェクトマネジャーが何度も交代するうちに、⑤開発が長期化するので当然発注側の要求仕様も変わる、であったりする失敗例をいくつも私たちは目にしてきました。 我々が今置かれている状況はこれとはまったく逆の理想的パターンであり、それは無理な要求、過大な受注に対してはたとえ売上が悪化しようとも断る方針を貫いてきたからこそ築き上げられたものです。 我々は無理な受注拡大に走らず、この種の優位性と経験を駆使してプロジェクトの「リスク管理」を的確に行い、「ニューメリカルテクノロジーズが絡んだからには何とかなる」評判を維持していきたいと思います。
以上は目先の仕事の話題ですが、さらに長期的視点から考えますと、次の期以降のシステム需要につなげる研究開発をどうするのかという問題があります。 この問題に対しては先に述べたリスク管理システムの計算能力高度化から始まる産業サイクル論の延長線上を試してみたいと考えております。 今期の設備投資の主眼でもあります。
すなわち、既存のALMシステムを使ってさらに別のダイナミックな予測をさせたいとか、あるいは新規に負債性ポートフォリオの全数把握をしたいなどの相談が当社に持ち込まれるのですが、典型的にはこのような要求は現状のシステム環境対比で数十倍から数百倍以上の計算資源を必要とするケースがままあるのです。
金融機関ユーザーからの要求は飽くことを知りません。 我々には秘策があり、それでこそ当社の社会的存在意義がある、行き着く先は金融機関の範疇を超えたシミュレーション分野のすべてであると高く目標を掲げて、研究開発に邁進する覚悟です。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、知的所有権関係と開発プロジェクトのリスクです。 知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。
また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。
そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物が譲渡されるようにしております。
2005年4月1日から全面施行となった個人情報保護法および内部統制との関連においては、当社内部の情報管理を徹底するとともに、情報流出を防止するべく従来通り社外への開発の外注は行わずに100%内製化を貫く方針で今期は臨みたいと考えます。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行