当社の提供するリスクマネジメントシステム (NtInsight®) では、開発当初からVaR だけでなく期待ショートフォール (Expected Shortfall, CVaR, tail-VaR) の計算をサポートしています。期待ショートフォールは、テール・リスクの把握においてより正確な情報を与える指標だからです。
2012年5月4日 – 東京 – 昨日、バーゼル銀行監督委員会から市中協議文書「トレーディング勘定の抜本的見直し」が公表されました。本改定案で提言されている項目のうち注目すべきは、定量的なリスク管理の指標をVaR から期待ショートフォールに移行するよう推奨していることです。本市中協議文書の要旨については仮訳が日本銀行から出ています。
本市中協議文書の主要な提言は以下の通りです。
- レギュラトリー・アービトラージの機会を大幅に減らすための、トレーディング勘定とバンキング勘定間の取引帰属に関するより客観的な境界基準の確立
- テール・リスクをより適切に捕捉する為に、VaR から期待ショートフォールへの移行
- Basel2.5 で導入されたストレスVaR と整合的させるため、改訂された標準的手法と内部モデル手法の双方に対する、極度なストレス環境下におけるキャリブレーション実施
- 市場流動性リスクの包括的な組み込み-これも前項目同様、Basel2.5 で採用された考え方との整合性を図るもの
- 内部モデル手法におけるモデルリスクを低減させる為の指標-具体的にはより細かな単位でのモデル承認プロセスの導入、及び、分散効果に一定の制限を加えること
- 標準的手法に対する修正-よりリスク・センシティブに、かつ内部モデルの信頼性の高い代替手段として機能するための修正
CVA に関する見直しは、今回は行われていません。
バーゼル委員会は、本文書中で「規制上の所要自己資本の水準を決定するに当たり、VaR によってそれを行うことはテール・リスクの把握をはじめとして多くの問題があることが認識されてきた。」と指摘しています。このような認識のもと委員会は期待ショートフォールの活用を検討しました。期待ショートフォールは保険業界では既に利用され始めていますが、銀行業界ではそれほど一般的ではありません。
Artzner(注) は、VaR に内在する問題を低減する手段として、期待ショートフォールの利用を推奨していました。VaR はパーセンタイル値を超える損失を無視し劣加法性を充足しませんが、期待ショートフォールはパーセンタイル値を超える損失も考慮し、かつ劣加法性を満たすことが証明されています。期待ショートフォールの方が数学的観点からはVaR に勝りますが、これを実務上利用できるように実装していくこと、及び、この計算による負荷の増大は金融機関に対して負担を強いるものです。
当社は早くから期待ショートフォールの利点を理解しており、14年前、つまり製品開発の初期段階から、VaR だけでなく期待ショートフォールも指標として計算できるようにしてきました。当社の製品は、取引件別レベルからの、つまりボトムアップ手法でのリスク量計算を行う際に、効果的に並列処理を行い、またより高速なアルゴリズムを採用することによって実務利用に耐えるように工夫してきました。線形ではないテール・リスクを正確に把握するためには、百万回ものモンテカルロ・シミュレーションが必要とされるからです。
期待ショートフォールの算出が規制上の必要事項となる場合も、当社の製品の利用によって十分対応可能です。
(注) Artzner, P., F. Delbaen, J. M. Eber, and D. Heath, “Thinking Coherently,” Risk, 10 (11), 1997, pp. 68-71.参照