今の50代、年金はもらえるか?
50代半ばのみなさん。グッドニュースです。みなさんは大変な幸運の持ち主。日本の支配者なのです。信じられませんか? 以下ではその理由を説明しましょう。
2012年2月5日 – 東京 みなさんの上の世代を見ますと、元公務員や元会社員の高齢者は共済年金や厚生年金をもらって旅行三昧。元自営業の方は年金も少なくてちょっと可哀そうですが、それでも安い医療費の恩恵を受けてます。世代間で十分な所得移転がされてるからこそこんな生活が出来るのですね。
一方、日本はこれから人口も減少し経済が縮小すると言われています。今の年金制度を続けるならば、今まで以上に働き盛り世代に年金保険料を負担してもらわなければなりません。財政危機が起ころうと起こるまいと、年金を十分くれなければ困ります。しかし次の図の通り、今や再分配政策のおかげで働き盛り世代も生活困窮しているのが現実です。老人ほど得をするシルバーデモクラシーはいつまで続くのでしょうか。いつか働き盛り世代を支持する政治家が現れて、「老人のみなさんに渡す年金はありません」と言い出すんじゃないでしょうか。不安ですか?実は心配無用なのです。少なくとも政治的には。
中位投票者定理とは何か(退屈な方は読み飛ばしてください)
年金、社会保障。それは世代間で対立する政治課題。その行方を考える時に役立つ理論があります。中位投票者定理。Wikipediaの説明は難解ですから、私が代わりに頑張って説明致しましょう。
年金は年を取らねばもらえません。早く多く年金を支給するほど高齢者が得になり、若者が損する仕組みになっています。ここで定数1の選挙区に二人の候補者が立候補しました。候補者A「年金をもっと充実します」。候補者B「現役世代の年金保険料負担を減らします」。もし他に争点がないならば高齢者ほど候補者Aに投票するはず。そうなりますと投票者全員が年齢順に一列に並べば、ちょうど真ん中の人(これを中位数と言います)がAとBのどちらの候補者に投票したか見るだけで選挙結果がわかります。だから選挙の出口調査も超簡単。9,999人の有権者がいる選挙区ならば年齢がちょうど5,000番目の人がどちらに投票したか調べればよい。それどころか投票するまでもなく5,000番目の人の意見を聞くだけで選挙結果を予想できる。これが中位投票者定理です。
端的に言ってしまえば、世代間で対立する単純なケースでは、年齢順で真ん中の人(中位数)の意見がそのまま反映される。それ以外の誰が喚こうが騒ごうが関係ありません。
若者や働き盛り世代の意見など無視してOk
ご存知の通り、衆議院議員総選挙は定数480名の小選挙区比例代表並立制。選挙区数300で議員定数300名の小選挙区、および選挙区数11で議員定数180名の比例ブロックからなっています。
国勢調査のデータを使って選挙区毎の有権者年齢の頻度分布(ヒストグラム)を調べてみました。これが選挙区をひとつひとつ確認するなかなか大変な作業でありました。その結果を次に示します。有権者の中位数は52.3才。つまり20-40代の有権者がどんなに喚こうが叫ぼうが、50代以上の有権者にとってはまったく関係ないのです。しかも高齢化のおかげで中位数はますますこれから上がることでしょう。
大都市近郊や地方中堅都市に注目、過疎地域に住むのは避けよう
先のヒストグラムを見ると、選挙区毎に結構ばらついてることに気がつきます。どこに住めば最強の有権者と言えるのでしょうか。そこで全300小選挙区についてひとつひとつ中位数年齢を調べてみました。これがわざわざExcelマクロ関数を作るような大変な作業でありました。地図をクリックすると拡大して表示されます。
よく見れば大都市近郊や地方中堅都市に50代有権者の楽園が広がっています。若すぎる地域に住めば働き盛り世代の目が冷たいでしょう。高齢者ばかりの地域ではいつまでも貴方が地域のために働かねばなりません。これからは地域最強の有権者になる、その意気でいきましょう!
閑話休題…
有権者の年齢中位数がずっと若い世代にあった時代ならば年金・社会保障費の削減を前向きに議論出来たかもしれません。しかし今や引退を意識し始める50代半ば以降に決定権があるのです。だから一人一票の原則がある限り、年金・社会保障費の削減はできないか、出来ても too little too late に終わるのです。
仮に一人一票原則を修正し、未成年者を持つ親に代理投票させることにより、20才未満を含む全人口を対象とした意思決定を模倣したとしましょう。いわゆるドメイン投票方式(デーメニ投票法とも言います)です。それでも中位数は45才。恐るべし少子高齢化。
衰退スパイラルは始まったばかり
よく日本の財政危機が話題にのぼります。国債暴落や超円安を囃す人もいます。ではそんな危機が起こるのでしょうか?そのときに年金はもらえなくなってしまうのでしょうか?
財政危機が起こりそうだから年金・社会保障費を削減し、増税(すなわち働き盛り世代からの徴収)できたとします。そして財政危機はひとまず回避されたとしましょう。しかし上で説明したように日本を支配しているのは50代半ば以上の世代です。民主主義がある限り、それでも年金は財政を危険にするほど支払われるでしょう。すると働き盛り世代への負担はさらに増します。稼げる人材は流出し潜在成長率が低下します。そして財政危機を再び繰り返す...
これはスパイラル的過程です。この過程は年齢中位数が低下するまで数十年間続く。あるいは我々が知っている形の民主主義が姿を消し、強権的な政治が行われるまで。それとも外部要因による特需(過去の歴史では主に戦争)が発生するその日まで。これが人口オーナス効果なのです。