2004年5月 – 東京 – 1998年9月に起きた米ヘッジファンド大手LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)の破綻は、リスク管理システムに対する教訓として市場参加者の間で語り継がれています。
LTCMは、ソロモンブラザーズのスター・トレーダーが中心となり、ノーベル賞学者2人を擁し、各国の中央銀行や著名金融機関を顧客とする、当時は”dream team”と称された会社です。
当時最高のトレーダーと目されたジョン・メリウェザー、そしてオプションモデルほかで名高い金融経済学者のマイロン・ショールズとロバート・マートンが経営する会社...当然ながら同社のVaRモデルによるリスク管理は世界最先端と認識されていました。ところが1998年9月、ロシア危機が誘発した質への逃避(flight to quality)と流動性喪失により、LTCMは多額の損失を抱えてしまいました。LTCMのポジションがあまりに巨大であったため、金融市場の混乱を恐れた米連銀は同社の救済に乗り出したのでした。
金融市場関係者はLTCM事件から数学モデルを過信してはならないことを学びました。通常の市場環境の下で成立する静的VaRモデルなど、混乱した市場の中ではまったく無力なのです。役に立ちません。リスク管理に携わる人々は数学モデルに対してより謙虚な見方をするようになり、数学よりも常識と経験を重視するようになりました。現在、過去データに頼るヒストリカルシミュレーションや、ショック状況を恣意的に作り出すストレステストが重視されているのはこうした背景があるからです。
LTCM破綻の詳細については様々な分析がされておりますから、興味のある方は参考にあげた書籍をぜひご覧になってみてください。
参考
- ニコラス・ダンパー著、「LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折」、東洋経済新報社
- ロジャー・ローウェンスタイン著、「天才たちの誤算―ドキュメントLTCM破綻」、日本経済新聞社