2005年3月 – 東京 – オペレーショナルリスクに関する強い理論モデル指向は国内も海外も、すっかり冷めてしまいました。もちろん、規制当局から、「オペレーショナルリスク管理を推進する議論をフレームアップしたい」、という強い意図が伝わってきますし、そうした事情に理解もするので、オペレーショナルリスクの計量化自体におつきあいはするわけです。我々もオペレーショナルリスクをEVTとモンテカルロ法を使って計算するシステムを提供する会社なのでついていきたいとは思います。しかし、申し上げにくいけれども、これは無理筋です。
我々のようなリスク計量技術の専門家にとっては、高度でも難しくても、システムを作ること自体は問題ありません。しかし不確かなデータ、稀なイベントという現実に対して嘘はつけないのです。技術屋の立場からオペレーショナルリスク計量化理論を見ると、高級そうな数式を使うからもっともらしく見えるだけなので、「これではわけがわかってない金融機関の人が信じてしまうかもしれない」との思いがよぎり、良心が痛みます。オペレーショナルリスクの計量システムというのはそんな存在、なんとか分布もかんとか理論も本質とは関係のない、数式の形をした法律文書なのです。もし背後の数式に深遠な意味があると考える人がいれば、それはモデルリスク。きっと内外問わず「先進的金融機関」の方々も同じ思いだと思います。
確かに少し前まで理論万能主義を唱える論調が民間の一部にあったことは事実です。しかし今や火元である元 Earnst & Young と元 Bankers Trust の人々はどこかにいってしまい、オペレーショナルリスク管理システムのベンチャー企業 OpVantage は結局 Fitch に買収され(現在 OpVantage は同じく Fitch に買収された Algorithmics と協業中)、海外のコンサルタントやベンダーも大きな商売にならないので真面目に取り組んでいるとは思えません。こうしたケース(不発に終わった金融テクノロジー)の常として、成れの果てを統計ソフトベンダーの片隅で見ることがある程度であり、その先にある未来も予想してしまうのです。
こうした事情により、内部モデルによるオペレーショナルリスクの計量化手法が、政治ではなく実質的な意味で自己資本比率規制に耐えうるほど昇華するとは目先考えられないのです。我々はリスク管理システム専業のメーカーなのですから、それでもなお、文句を言わずに金融機関を支えていかねばなりません。