概況
今会計年度(2000年4月~2001年3月)も前期比売上高28%増と好調に推移、個別案件に特段の引掛かりもなく、高水準の利益を確保できました。 社歴の浅い当社ではありますが、財務計数的には先々期中に純資産および利益水準において店頭市場公開基準まで到達しております。 1998年7月創業以来これまで無借金、無配当、株主資本比率(自己資本比率)を100%近くに維持しつつ増収増益を続けた結果、財務体質を一段と強固にすることが出来ました。
当期売上高
467,137,967円
昨年度の売上高は、主力の信用リスク管理システム製品 CreditBrowser と、CreditBrowser の上位に位置し市場リスク管理を統合するシステム製品PortfolioBrowser (対外未発表) の2製品でほぼ二分する形でした。 また、他に格付けスコアリングシステム製品 ScoringBrowserを含め、自社開発の金融リスク管理システム製品の販売収入が当社売上の大半を構成しております。
資産の状況
金融資産については安全性と流動性を重視し、普通預金および大口定期を対象とし、複数の金融機関に分散して運用しております。 MMFを含め利回り保証のない短期金融資産、ならびに運用目的の長期資産は保有しておりません。 当社の顧客は大手の金融機関であり、販売商品は自社開発の大規模なシミュレーションソフトウェアです。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しません。 固定資産の大半はコンピュータのハードウェアでとなっております。 今般の法人税法改正に基づき、今期からソフトウェア開発原価の計上を行っております。
なお、2002年3月実施予定のペイオフ解禁ならびに金融不安に対する備えとして、今年度中に金融資産の一部を日本の短期割引国債および米国財務省証券に振り替える予定です。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 140,479,000円
(注)資本勘定の140,479,000円は法令に定めるプログラム等準備金。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号 25295。 登録年月日平成11年2月28日。
当社取締役3名が当社株式を100%保有、外部との資本関係は一切ありません。
設備投資の状況
昨今の金融機関の合併に伴い計算対象となるデータ量が増加、各金融機関への支援能力維持のためには、自社保有システムの強化が急務です。 また、設備陳腐化は研究開発の妨げです。 耐用年数の残るコンピュータシステムであっても1~2年経過した程度で積極的に除却を行い、新規に買い換えております。 2001年3月現在、ギガビットLANで結ばれた数百ギガバイトから1テラバイトの容量を持つ2~4並列CPUのUNIXおよびWindowsサーバー機を7台保有、開発および顧客のバックアップに備えております。
業務環境
当社は、自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーというユニークな立場にあり、信用リスク管理を中心とする金融リスク管理システムの分野において日本国内で事業活動を行っております。 以下、簡単に当社を取り巻く業務環境についてご説明申し上げます。
需要動向
金融リスク管理システムの分野では、1980年代から1990年代半ばまで、ALM (Asset Liability Management)、BPV (Basis Point Value、sensitivity analysis)、Potential Exposure、RAROC/RAPM (Risk Adjusted Return On Capital / Risk Adjusted Performance Measurement)、EaR (Earnings at Risk)、VaR (Value at Risk)、といったキーワードに代表される数々の金融テクノロジーが登場しました。 金融リスク管理システムの分野は、まず管理会計とトレーディングのフロントおよびバックオフィス業務に始まり、ポートフォリオ管理、さらにBIS規制などコンプライアンスの分野まで拡大して参りました。
ところが現在、この金融リスク管理システムの分野にはネガティブな材料が少なくありません。 第一に、金融テクノロジー的にはパラダイム不足の局面にあり、これが顧客サイドの需要抑制要因になっています。オペレーショナルリスク管理、次のBIS規制 (いわゆるBasel II Accord)、あるいは会計制度変更への対応が目先の話題ですが、何れも大騒ぎするほど目玉となるテーマではありません。 第二に、この種の金融技術の普及が一巡したことです。 市場VaRや信用VaR程度であれば潜在顧客の大半が必要なシステムをすでに手に入れています。 第三に、相次ぐ金融機関の統合により潜在顧客数が伸びません。 特に日本国内では金融機関の整理統廃合の流れが顕著です。 世界的にも機関投資家数の増大とリスク管理技術の普及の勢いには一服感があります。
競合他社の状況
金融リスク管理システムの技術は主に欧米の先進的な金融機関をリード役として普及し、システム市場もこれに呼応して発展した経緯があります。 つまり、金融リスク管理システムの分野は、本質的に金融業界、特に先進的な金融業界に対する随伴産業です。 欧米では学界関係者の手によるシステム会社創業という事例もありますが、多くの金融リスク管理システムベンダーは先進的な金融機関からのスピンアウト組を中核とする ISV (Independent Software Vender, 独立系ソフトウェアベンダー)です。 当社も例外ではなく、そのようなISVの一つに過ぎません。 さらに日本の金融機関のIT部門の状況を詳細に眺めますと、自社内にIT専門家チームを置いて開発するのではなく、仕様を示して外部メーカーに開発委託する傾向が伝統的に強くあります。 日本の金融機関ではこの開発形態を一般に「自行開発」と呼んでいます(「コラム: 金融機関のシステム開発」参照)。 委託開発を受ける側のシステムベンダーは、開発委託契約締結に併せて技術を外部調達、あるいは内部調達します。 この開発形態の中核を担っているのが俗に言う SI (System Integrator, システムインテグレーター) です。 SIはゼネラルコントラクターとしてサービスを提供し、多くは系列会社や下請けとの間で鞘抜きを行うのが通例です。 この他、著名なコンサルティング各社を含めた計3つのグループによって金融リスク管理システムの市場は構成されています。
コンサルティング各社は、金融リスク管理の市場では目立たず、今時の話題である人事系、ERP、および戦略系コンサルティングに業務をシフトした感があります。 1990年代、BISマーケットリスク規制への対応がブーム化した当時は、ウォール街出身あるいは数学系に強いコンサルタントを連れて来れば経験・能力不問で高額の報酬を得ることができました。 しかし現在では顧客側の能力水準が向上してしまい、余程スキルと経験のあるコンサルタントを揃えた会社でない限りやりにくいようです。 昨年度中、活発な活動がみられたのは主にオペレーショナルリスク管理の関係で、プライスウォーターハウスクーパース、中央フィナンシャルがあった程度でした。
日本国内のSI各社については、1980年代末から1990年代中期までブーム化した一連のリスク管理システム構築の後であり、引き続き全般に静かな動きです。 今なお当社主力の信用リスク系システムにおいて当社と競合する可能性があるのは日本国内のシステムベンダーでは、ほぼ富士通製品のみです。 同社製品はOLAP系の機能、各種理論モデルへの対応、大容量データの高速処理などにおいて差異があり、当社製品に対する廉価版の位置づけで市場に参加しております。 当社にとってはコスト面で相応の脅威でしょう。 金融リスク管理は特殊な専門分野ですから、大手といえども特定個人のスキルに依存する問題があり、しかも多数の従業員を養えるほどには市場規模は大きくありません。 他のSI各社については、社内の専門家が転職したり、事業計画を見直すタイミングでこの2、3年の間に実質的にこの製品セグメントから撤退、あるいはさらに別のマーケットにシフトしているようです。
日本国内のISVの動向を眺めますと、証券系バックオフィスとして大手になったエックスネット社、数理分析とデータマイニングを特色とする金融エンジニアリング・グループ社など、専門能力に優れる各社は概ね業績好調のようです。 他方、海外のISVの活動は全般に低調です(「コラム: 海外のシステム会社と日本市場」参照)。 ここ数年間を通じても、後発VaRベンダーである加アルゴリズミックス社、あるいは米JPモルガンから独立したリスクマネジメントグループ(RMG)社日本法人が多少目立った程度でした。 当社との競合は、国内ISVとは皆無、海外ISVについては1~2年前を最後にありません。 これは顧客側で選別が働いていることと、当社が位置する製品セグメントにおいて他社製品が空白になっているためと思われます。 また狭い市場とはいえ市場の中にもまたさらに専門分化が激しいため、国内ISV他社の専門領域にまで当社が出て行く余裕はありませんし、その逆もまた同じであったのではないでしょうか。 昨年度中、エックスネット社の勘定系システムから当社製品の PortfolioBrowser にデータを導入し、市場系のリスクを計測する開発案件もありました。 一部の国内ISVについては潜在的な競合先と見るよりも協力の可能性を探る方が適切かもしれません。 海外ISVについては機能面とともに計算性能でも当社は優位にありました。 もちろん、参入撤退を繰り返すSIとは異なり、ISVは製品が生命線ですから一時的に不調であっても何れ本腰を入れて参ります。 今後とも国内外のISVが当社にとっては最大の脅威であることには変わりありません。
このほか、インターネットブームの延長線上でリスク管理分野でもASP (Application Service Provider) への参入が昨年度は散見されましたが、金融以外の他分野と同じく安易なASP市場への参入は多く失敗に帰結し、金融ASP市場は冷却しつつあります。 また、総じて日本国内のシステムインテグレーターも海外パッケージも弱体であることを突いて、特に1980年代末の邦銀が強力であった頃の第一線の方々が金融機関からスピンアウトして起業するケースが多く出てくると予想しておりましたが、予想は外れました。 これは大規模な金融再編も一通り終わり、日本国内の金融不安に一服感が出ていることが大きいでしょう。 また、知的で計算高い金融業界人のこと、リスクリターンの関係で考えた計算の結果でもありそうです。 当社の業績を見ればわかる通り、事業会社として稀な成功を目指してもこの程度です。 世界的に見てもリスク管理システム専業としては大手でIPOを目前に控えた加アルゴリズミックス社さえ売上高は 66.06 百万米ドル(2000/12月期)、しかも企業買収による業容拡大を急いだからとはいえ、1989年の創業以来黒字転換も果たせない厳しい世界です。 転職先で成功して高い報酬を得る、あるいは高い職位を目指して生涯賃金を向上させる方が有利と考えても不思議はありません。 あるいは金融業界における能力への報酬はそれほど高水準であるとの見方もできるでしょう。
協力あるいは提携先
当社は現在、ハードウェアベンダー各社と良好な関係にあり、資本関係もないことから中立的な立場でこの関係を維持していきたいと考えております。 コンサルティング各社に対しても同様の考え方です。 何れの分野も当社の主力業務ではありませんから、必要に応じて関係を維持していきたいと考えております。
日本国内SI各社との協力関係については、これまで非常に慎重に考えてまいりました。 CreditBrowser についてもSI経由の出荷は創業期の例外的案件に留まっており、大半は顧客との直接契約です。 仕事の外注についても否定的であり、これまで外注実績はありません。 その理由は、当社の業務が専門的に過ぎるという問題もありますが、より深刻なのはITバブルの成長と崩壊以降、SI各社およびその下請け先の人材の質とモラル面が最近とみに劣化しており、SIと組んだり外注を使った開発案件は格段に開発リスクが高くなるためです(「コラム: IT業界のモラルハザードと人材の劣化」参照)。
今後、SI各社との関係については、 PortfolioBrowser との関連から模索したいと考えております。 これは地理的に分散した拠点をサポートする可能性が生じた場合や、多数のシステムと接続するケースで、労働集約的コストがかかるためです。 しかし、SIを使うことでこのコストを削減できるかといえば迷いがあり、直接サポートを行った方がよいかもしれません。 何れにせよ合格点に達する良心的なSIの探索が顧客と同じく我々にとっても悩みです。
学界関係
バーゼル合意関係の話題が一段落して以降、金融界一般としては学界への関心は減じておりますが、リスク管理の分野には学問的に見て未解決の問題が多数残っております。 我々も、少なからず関心を持って眺めております。 当社では特に、擬似乱数・準乱数の研究、複雑系数学、確率過程論、多変量下における分散指標、など数学系の分野を対象として成果物を渉猟しております。
金融理論関係の研究については、これまでは金融機関内部および関連企業のリサーチチームによる成果物、および米国の大学における研究成果が重要でした。 この状況は現在も基本的に変わりありません。 特筆すべきは、日本国内においても最近になってようやく金融系の研究活動が盛り上がりつつあることです。 従来、日本の大学と言えば、成果物よりもむしろ人事部絡みの関心で見られる傾向にありました。 しかし、最近は金融のコースを新設する大学も増えて、徐々にレベルが向上してきています。 実際に役に立つ成果物が日本の大学から出てくる日も遠くないかもしれません。 その意味で金融の専門家も今以上に大学に関心を持ってよいのではないかと思います。 信用リスクやオペレーショナルリスクを分析する場合、日本の特殊性が障害となって欧米の研究成果が意味を為さないことがしばしばです。 米国市場に内在する問題については研究者の関心が高く論文も多くありますが、そこから汎世界的に日本市場をすべて説明しようにも無理があることを常々感じております。 欧米の後追いでない独自性のある研究が待たれるところです。 大学以外では、ニッセイ基礎研究所および日本銀行金融研究所から日本市場を対象とする数少ない研究が出ており、貴重な資料となっております。
より現実に近いレベルでのリスク量測定やモデルに関する研究、特に日本の金融機関の実データを用いた実証研究については公開情報からは入手不可能です。 この方面では多くの顧客を抱える我々自身の方が情報を豊富に持っております。 このため、大手銀行級の能力を持つ社内システムを使って新しいモデルの設計を行い、シミュレーションモデルの特性、実態的な信用リスクの分布状況、設定すべきパラメータなどを調べております。 しかし残念ながら非公開情報には守秘義務契約が付随するため、開発過程で得た研究成果も非公開とせざるを得ません。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、知的所有権関係と開発プロジェクトのリスクです。 知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化は不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。
また、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物が譲渡されるようにしております。
今期の事業方針
以上の分析を踏まえて、今期は既存顧客へのサポート充実ならびに研究開発に力点を置く方針です。
既存顧客への持続的サポート
現在の当社信用リスク管理製品 CreditBrowser 、ならびに統合リスク管理製品 PortfolioBrowser などの既存顧客に対しても、これまで通り機能向上を提供し続けます。 当社は次のBIS規制見直しとその対応に到るまでの責任を顧客金融機関と共有しているわけです。 通常のソフトウェアシステムの保守期間を超えて、今後も内外の規制動向に応じて新しい機能やより実際的な機能をお届けしたいと考えております。 特に昨今は導入先金融機関が増えるとともに、システムだけではなくノウハウの提供、すなわち実質的なコンサルティングを求められることも多くなっています。 信用情報会社との協力による ScoringBrowser の営業やオペレーショナルリスク対応 (先期末に開発受注) においても、顧客数増大に伴ってサポート水準が落ちたと言われないために責任ある対応をしていきたいと思います。
研究開発の重視、魅力ある製品作り
業務面では、信用リスク管理システムを主力に据えるのは昨年度までと考えております。 システム業界全般に見ても稀有なレベルの優秀な人材を有しているとはいえ、数量的なリソースの面では劣勢であり、結果として当社でなければ出来ないような高度な理論モデルやコンピュータサイエンスの領域で勝負してきたわけです。 相応に実績が伴った現段階におけるシステム会社として安易な経営路線は人材の大量採用+営業面では大量受注ですが、これではシステムインテグレーターとの差別化が図れず、また社内的にも人月単価当たり幾らの低スキルエンジニアが増えて「悪貨は良貨を駆逐する」状況を招き、優秀なエンジニアの離反を招きかねません。 また、他人資本のない当社は配当を気にする必要がなく、短期の収益ではなく長期的スタンスに立った経営を行いうる自由度を持っています。 当社の社風を維持する意味でも、数学系・金融系の実力あるエンジニア、コンサルタントの働きやすい環境を作ることが必要でしょう。 今期も金融リスク管理分野に注力し、少数精鋭・高待遇を維持する方針です。
持続可能な経営のための基盤整備
多くの顧客金融機関の皆様に支えられ、創業からわずか3年で急成長出来たこと自体は喜ばしいのですが、当社は創業期特有の資本不足から早期に脱却する必要がありました。 当社の経営方針としてベンチャーキャピタルからの安易な資本導入は敬遠しましたし、中立的立場に位置しかつ売上に直結しない研究開発を可能にするためにも系列色のつく先からの資本導入は見送る必要がありました。 つまり自己資本充当策としては高水準の利益による内部留保の積み上げに頼る他なく、収入面に限界がある以上、これは経費圧縮、そして雇用抑制を意味しました。 この経営方針を体裁を構わず徹底した結果、高額納税法人に名を連ね、純資産は拡大、財務体質は今や老舗企業並みです。 しかし無理を重ねた結果ですから、経営基盤に注意を払う時期に来ていると言えます。 銀行出身経営者の杞憂と思われるかもしれませんが、過剰な自信のもとに冒険的投資を続行し、社歴の浅い急成長会社がおかしくなったケースは数知れません。 長期の顧客サポートの裏づけとなる持続可能な経営を実現すべく、基盤項目の整備に注力したいと考えております。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行