概況
前会計年度(2008年4月~2009年3月)の売上高は過去最高の797,725,000円(前期比7.4%増)となりました。
創業から11期を迎えた今期(2009年3月期)は、財務的には非常に好調な期であり、過去最高の売上高を計上できました。 一方、純利益は前期比26%減少となりました。 これは例年この決算概況欄で申し上げておりますように、黒字を出しても租税負担率が実に47.3%にも達する当社にあっては、税金に持っていかれるならばと可能な限り利益圧縮を試み投資に振り向けたことによる意図した結果です。 より具体的には今期はALM(資産負債管理:アセット・ライアビリティ・マネジメント)関連の製品開発やスーパーコンピューティング関連の研究開発などの先行投資関連で販売管理費を多く計上しました。
来期(2010年3月期)につきましては前期比40-50%減の売上高を予想しております。 世界的な不景気の最中にある顧客金融機関の経費削減の影響を受けたもので、もちろん財務的なインパクトは小さくありません。 とはいえ、当社の限界的な経費水準がもともと低い上に、今期の意図的な経費積み上げ分が来期は逆に剥落しますので、若干の黒字決算で着地しそうです。 当社では見込み案件が出来てから納品までが平均1年程度ですから、1年先の出来上がり業績を概ね予想できます。過去10年間を振り返っても期初予想をほとんど外しておりません。 しかし不況は深刻そうですので、来期はこの決算予想に加えて危機対応に関するコンティンジェンシープランにも取り組みたいと考えます。 これについては後述します。
なお、民間企業信用情報会社に対する当社からの財務情報開示は2006年3月期決算を最後にして行っておりません。また民間企業信用情報会社から今後接触を受けたとしても財務情報の開示は致しません。 この方針は、2006年4月1日の法改正「所得税法等の一部を改正する等の法律」施行により法人税を含む公示制度が廃止されたことに合わせる形で実施しました。 したがって、株式会社帝国データバンクと株式会社東京商工リサーチなどの民間調査会社から得られる当社の財務情報は各社による推定値か、または本欄に記載された数値およびグラフから転記されたものです(「コラム: 格付け冬の時代到来? – 企業信用情報データベースの現実」参照)。 当社と直接取引のあるお客様、取引をご検討のお客様に対しては、当社財務諸表を個別に開示致しますので直接ご請求くだされば幸いです。
当期売上高
797,725,000円
当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しないため、販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
当社の資産の大半は現預金です。 残りの資産も大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は超短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 34,515,939円
資本勘定の34,515,939円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号25295。 登録年月日 平成11年2月28日。 このプログラミング等準備金については法令改正(廃止)が決まっており、当社では2004年3月期決算から逐次取り崩しております。 株式保有状況については、当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切ございません。 当社は資本面で中立な企業です。
設備投資の状況
今日のリスク管理は装置産業でもあります。高い開発生産性を維持し、顧客金融機関のニーズに応えていくためには自社保有システムを強化していかねばなりません。 近年は金融機関の大型化が進んだ結果、顧客保有データと同等規模のテスト環境を整備するだけでも一苦労です。 特に負債サイドALMや日次シミュレーションを実現するためには、多大なハードウェア投資を必要とします。 このため、引き続き高水準の設備投資を行っております。 前期においては、東京工業大学のスーパーコンピュータを利用し、高度に並列動作する動的シミュレーションモデルを使ったALMモデルを実用化しました。 本研究は、「戦略分野推進:社会基盤のリスク管理シミュレーションへのHPC応用技術の開発『大規模ALMシミュレーションへのHPC技術の適用』」として採択して頂いております。 詳細は、公開文書「金融ALM/リスク管理モデルの運営とコンピューティング・グリッド技術の応用」をご覧ください。
危機対応モードの経営
冒頭申し上げた通り、来期(2010年3月期)につきましては危機対応を優先する所存です。 当社は非上場会社で外部株主もおりませんから経営成績には拘るつもりはなく、必要とあらば躊躇なく内部留保を取り崩して自然体で赤字決算に致します。 仮にそうした場合でも2009年3月期末の流動比率(流動資産/流動負債)は1310.1%、有利子負債比率は0%(無借金)、自己資本比率(株主資本比率)は92.6%、固定資産比率(有形固定資産/自己資本)1.2%、負債勘定は100%が未払法人税等の流動負債で固定負債はゼロです。 これほど超健全な財務体質ですので、バブル崩壊時を越える恐慌が起きた、近隣国との戦争状態に陥った、致死率の高いインフルエンザが蔓延したといったパニックでさえ、財務的には十分耐えられると考えます。
この過剰なまでのリスク回避指向については外から見れば異論があるのではないでしょうか。 今時の大学教育やMBA教育あるいは売れっ子コンサルタントが語る類の経営手法からと比べれば、財務規模がここまで拡大した会社の経営としては相当に違和感を持たれるかもしれません。 しかし、当社の経営陣もまたドメスティックな銀行出身者とドロドロとしたメーカーの下積み経験者であり、流行の経営論の多くが絵空事に過ぎないことを認識しています。 前年度の決算概況欄では当社が「シティバンクやモルガン・スタンレーよりも健全な財務内容」であるという例えを致しました。 ところが1年経過してみますとどちらの企業も政府救済により一息ついたものの、2008年末一時は実質的に経営破綻したものとみなされています。 ですから現在は「日立製作所や毎日新聞社よりも健全な財務内容」であるという例えになるでしょうか。 ここで問題になるのは我々はあくまで中小企業であって、仮に問題が起きても最近パイオニアなど電機メーカー各社や自動車メーカー各社であったような税金投入による政府救済策をしてもらえるなど絶対にあり得ないことです。 その意味では当社が今も「経営者も従業員」の非上場会社であること、すなわち資本と経営が一致していることは非常な強みです。 経営に口出しするだけの外部株主・ベンチャーキャピタル等との関わりは一切ありませんから危機ともなれば自らの体力で「冬眠」すればよい。 これは自営業者に対して銀行がするアドバイスとまったく同じです。 動物と同じで冬眠するには体力が必要、危機の時代をやり過ごすだけの安全資産確保が重要なのです。
なお、日本経済新聞ばかり読んでいたり古い社会科教科書で勉強した方の中には「中小企業=借金漬けで不況期には潰れてしまうような脆弱な経営体質」と考える方がいるかもしれません。 ところが実態はさまざまです。 当社で2001年10月22日に行った「統合リスク管理セミナー」の資料中にも図示した通り、民間企業の有利子負債比率はバブル崩壊以降大きく低下している。高校や大学の経済学で教えている内容の多くが実社会とは異なる。 先述の通り当社のように工場設備を持たない新世代的な小企業が利益を出せば実効税率は50パーセント。 配当すればなんと実効税率75パーセント(1 – 法人実効税率50パーセント x 個人所得税率50パーセント)。 低成長国家日本にこのとてつもない法人税! おかげで当社のように「アクティブモード」と「冬眠モード」を使い分け、「どうせ税金で持って行かれるから大きなリターンを目指さない」と言うことは「リスクをとらない」とする企業は珍しくありません。
積極的な採用方針
当社にとっては財務面以上にリスクを感じるのが人的リスクです。 当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、ALM・収益管理、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。 この種の難易度の高い金融系システムを提供する専門会社は、国内的にも世界的にも、金融機関からのスピンアウト組が中心となって設立した会社しか存在しません。 我々から見れば、Moody’s、S&P、Fitch、R&Iなどの格付会社も、マッキンゼー、ボストン・コンサルティング・グループなどの戦略コンサルティング会社も、PwC、E&Yなどの会計系コンサルティング会社もすべて部外者でプロフェッショナルではない。 ノウハウ面で比肩できるのは一部の投資銀行に存在するインサイダーチームに限られると申し上げてよいでしょう。 このように専門性が強い分野でありますから、我々自身の士気を保つ努力、より直接的に申し上げれば主要な人材の離散を防ぐ努力とともに、そのような人材をどのように採用するのか教育するのかが重要です。
この人的リスクに対して創業以来当社がとってきた対策は「主力社員=取締役=株主」とし、この範囲プラス補助的業務で済ませられない仕事は受けないことでした。 つまり弁護士事務所・会計事務所・病院経営に類似した経営を選択すること。 この対応策の有効性は「会社が上場して自社株を持たせた社員に上場益が行き渡った途端に専門企業から脱落する」パターンが多いことによって逆説的に証明されるでしょう。 とはいえ創業以来すでに10年間。 このまま次の10年を維持できるとしても、その後はどうでしょう? 行く末は高齢化による衰退です。
そこで当社では新しいメンバーの採用を積極的に実施する計画です。 今期は深刻な不況で世の中は大幅な採用抑制という大変な好環境にありますから大変なチャンス到来と言えるでしょう。 ここまではわかりやすいと思います。
しかし問題はここから。 現在は実務経験者採用が難しい。 一見すると外資系金融機関に流れた人材を採用すればよいように思われるかもしれません。 ところがバブル崩壊時に日系金融機関から外資系金融機関に流れたような高品質の人材は現在のマーケットでは少数派に過ぎない。 多くは2001年以降の上げ底時代に採用された高給取りであり、修行すべき時代に楽をしたおかげで相対的スキルが低く、我々のような専門技術分野では実戦投入が難しい。 上場後の Goldman Sachs は非上場時代の Goldman Sachs とは異なる。 社会の敵になることも厭わない過剰なアグレッシブさは我々にとってマイナス要因であり、倫理面でも採用対象は限定されます。 古い時代の投資銀行で見られたような実直なビジネスマンタイプを探すのは至難の業です。 同じ事はエンジニアにも言えます。 特に日本国内では「プログラムを書く人=3K職場」とみなされてから長い。 大手システムインテグレータには PowerPoint のプレゼンが上手な人が集まるし、イメージに釣られてソニーに入社したような人を採用しても仕方がありません。 そんな中から技術開発の会社でやっていける方を見つけるのは大変です。 大学の博士号取得者は大変に厳しい品質になっているのが実態です。 この話題については以前のコラム「2007年5月31日 コラム:エンジニアの2007年問題」で触れました。 時代遅れの知識を教えた大学や数量重視の博士育成策を選んだ行政の失敗が問題の一部であると認識しております。
そこで我々は経験よりも能力を重視して主に20代を対象にした中途採用に重点を置きたいと考えます。 基本的には学業成績と面接重視で足切りして採用し、オフ・ザ・ジョブとオン・ザ・ジョブの研修に取り組みたい。 まるで普通の会社の研修部でする話題ですが、会社を設立して11年が経ち、ようやく私も最初に入社した銀行の人事部や研修部の苦労が身に沁みるようになってきたというわけです。 幸いにして2009年度は仕事も過大ではなさそうですから真摯に取り組みたいと思います。 なお新卒採用については引き続き消極方針です。 当社のような小企業にあっては学生モードから社会人モードへと切替させる初期研修は負担が重すぎる。 会社で「青春」されてははっきり言って困るし、のんびり屋が増えている実情、それではこの業界では戦えない現実は我々の子供世代の小中高世代からひしひしと伝わってきます。 いずれこの問題にチャレンジはしたいものの、今年はどうしようもありません。
知的所有権と開発プロジェクトのリスク管理について
知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。 そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物の所有権がお客様へ譲渡されるようにしております。 2005年4月1日から全面施行となった個人情報保護法および内部統制との関連においては、当社内部の情報管理を徹底するとともに、情報流出を防止するべく従来通り社外への開発の外注は行わずに100%内製化を貫く方針で今期も臨みたいと考えます。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行