概況
前会計年度(2003年4月~2004年3月)は、売上高前期比26.1%増の445,176,000円となりました。 若干上ブレしておりますが、売上高、利益ともに、ほぼ前期決算時の予測通りの着地です。 このように業績予測が正確なのは、システムプロジェクトの平均的な資金回収期間が約1年であるために、当社財務には1年後の業績を概ね見通せてしまうという特性があるためです。
期中における主な増収要因は、(1)02/3月期から03/3期にかけて生じた受注・回収の期ずれ解消、(2)新製品(Altitude)の貢献、でした。 一方、減益要因としては、(3)期末ドル安に伴う為替差損の発生がありました。 その他財務項目については、経費水準は前期並み、株主資本比率(自己資本比率)は88.5%となりました。 当社は設立当初から無借金経営で借入金がなく、販売製品は100%内製ですから買掛金がほとんど発生しません。 相変わらず健全な財務内容です(注)。
今期については、引き続き回復傾向にある売上に対して、事務所移転と開発機器更新に伴う費用発生があり、前期とほぼ同水準の決算内容を予想しております。
(注)株主資本比率が前期の97.0%から低下したのは未払い法人税発生が理由です。 グラフに示したように、2期前に利益が急減した後、前期にまた増えると、中間納税額算出に使われる利益額は低い方になるからです。 つまり、税法上の理由なので経常的な活動内容とは関係ありません。
当期売上高
445,176,000円
昨年度の売上高には、これまで主力であった信用リスク管理システム製品 CreditBrowserと、市場リスク管理との統合製品である PortfolioBrowser に対して、ALM(資産負債管理:アセット・ライアビリティ・マネジメント)関連の新製品 Altitude が貢献する結果となりました。
創業当初、顧客企業としては銀行業、リスク管理手法としてはVaR(バリューアットリスク)計測システムに依存する形でしたが、先期もALM分野へのシフトが一段と進みました。 売上構成から見る限り、現在では銀行・生保・損保を対象とするALMの会社と申しあげた方がよいかもしれません。
当社は大手の金融機関から直接受注して製品開発を行うパッケージソフトウェア業であり、販売商品は自社開発ソフトウェア製品です。 外部のシステムインテグレーターを介した契約はなく、仕事の外注も行っておりません。 従って仕入れも在庫も基本的に存在しません。 販管費の大半は人件費が占めております。
資産の状況
金融資産については安全性と流動性を重視し、普通預金、郵便貯金、政府債に分散して保有しております。 MMFを含め利回り保証のない短期金融資産、定期預金、運用目的の長期資産、節税目的の保険資産は一切保有しておりません。 固定資産は大半がコンピュータのハードウェアです。 すなわち、当社資産は超短期かつ流動性のきわめて高い資金ポジションになっております。
当社は日本の金融危機に備えて前々決算期の2002年3月期に金融機関取引の整理を行い、流動資産の一部については政府保証の郵貯振替決済口座に移動するとともに、保有資産の一部を米短期割引国債(T-Bill 3M)にシフトしました。 このため安全性は確保したものの、期末の円ドル為替水準の関係で前期末についても為替差損がかなり出ており、収益が押し下げられました。
今期については金融危機対応モードを解除する方向ですが、本業とは関係のない短期運用で稼ぐという発想はせず、金融情勢、国際情勢を睨みつつ安全性重視で運用する方針です。
資本の状況
資本金 50,000,000円 + 準備金 240,950,250円 (2004年3月決算後)
資本勘定の240,950,250円は法令に定めるプログラム等準備金です。 租税特別措置法第20条の2第1項及び第57条第1項の表の第1号の中欄のロに規定する汎用プログラム(制御プログラム以外のもの)として、情報処理振興事業協会にソフトウェア登録。 登録番号 25295。 登録年月日平成11年2月28日。 このプログラミング等準備金については法令改正(廃止)が決まっており、当社では2004年3月期決算から逐次取り崩しております。
株式保有状況については、当社の取締役3名が当社株式を100%保有しており、外部との資本関係は一切存在しません。 当社は資本的に中立的な企業です。
設備投資の状況
ある意味でリスク管理は設備産業です。 高い開発生産性を維持し、顧客金融機関のニーズに応えていくためには自社保有システムを強化していかねばなりません。 特に前期より本格化した負債サイドALMと日次シミュレーションを実現するためには、社内のハードウェア環境も大幅に強化しなければなりません。 ここで日次シミュレーションと記しましたが年次の書き誤りではありません。 今となっては10年程前に話題となった市場VaRや、90年代末のCreditMetrics等、初期型モンテカルロシミュレーションなどは児戯のようなもの。 これが金融リスク管理の最前線なのです。
このため、すでに2004年3月現在でもテラバイト級の容量を持つ並列CPUのUNIXおよびWindowsサーバー機を多数保有しておりますが、今期は開発基盤をさらに増強致します。 具体的には2004年8月に事務所を移転し、ギガビットネットワークへの更新、ならびに64bitハードウェアの増強を行いました。
業務環境
当社の特徴
当社は自社内に研究開発リソースを持つ独立系システムベンダーであり、ALM・収益管理、信用リスク管理、市場リスク管理、オペレーショナルリスク管理をはじめとする金融ミドルオフィス系システム(=金融リスク管理システム)を開発販売しています。
当社は業種分類的には情報サービス業に属しますが、非常に専門性の高い分野に特化していることから事業特性としてはコンサルティング業に類似しています。 人員的にも金融業または研究者からの転向者ばかりであり、いわゆる情報サービス系企業の雰囲気とはかなり社風が異なっています。
需要動向
情報サービス業として見るならば、金融リスク管理分野の問題点は長期にわたる需要不足にあります。 金融機関の合併が相次いだ結果、国際業務を行いうる金融機関はどの分野でも片手の指で数えられるくらいに減りました。 上位金融機関にのみ要求されるような高度なリスク管理システムを開発したとしても、販売先は限られてしまいます。 その一方で、金融リスク管理の技術革新は続いており、システムの複雑さと業務経験の有無が新規参入の障壁になっています。 つまり、金融リスク管理の市場は成長性に乏しい成熟市場であるということです。
このため、この分野に残る企業は漸次減少しています。 かって市場VaRシステムやALMシステムの分野において当社が競争し破った大手ベンダーの影はすでにありません。 コンサルティング各社も弱体化が進行、海外のシステムベンダーも新規受注をとれずに業務を縮小するなど主たる脅威ではありません。 残っているのは地銀以下の国内基準行向けシステムベンダー複数ですが、これらは同じリスク管理システムやVaR計測システムの名称を標榜していても技術的到達水準が大規模な国際水準行向けシステムとはまるで異なるため、当社と競合することはありません。 また、時々大手ベンダーがこの分野で実験レベルのマーケティングキャンペーンを行うことがありますが、当社に競合するような製品を送り出せたものはなく、(あまりに利益水準が低いので)長期的視野では取り組めず営業失敗が判明するたびに撤退を繰り返しています。 結果として、当社のシェアは漸次拡大しており、ポートフォリオレベルの信用リスク管理と統合リスク管理の分野では文句なしのトップシェアになっているほか、市場リスク、オペレーショナルリスクの分野でも同様の傾向にあります。 ベンチャー企業と思っているうちに他社がいなくなってしまって、いつの間にか老舗企業の位置に転じたわけです。
他方、近縁異分野である市場系フロントシステム、バックオフィスシステムなどは証券会社需要があって好調のようです。 また小口需要まで拾うならば、企業の財務診断、与信データベース構築といった分野も堅調です。 しかし、これらの近縁成長分野には当社は参入しておりません。
今期の方針
以上の理由から、当社が自然体で経営を続けた場合、売上高は安定的(ただし期ずれ影響で見かけ上の変動性は高い)、利益水準は比較的高い、しかし成長性は乏しい、という状況が当面続くものと思われます。 収益事業としては面白みに欠けるわけですが、金融機関経営にとってリスク管理が不可欠であることに変わりありません。 仮に当社が投げ出してしまえば、有効な代替システムが市場に存在しないのです。 当社はせっかくこの分野の勝ち組として残ったのですから、今後もこの分野に踏みとどまり研究開発を続けたいと思います。 これは社会的使命としても重要な責任であると考えており、長距離ランナーの孤独に耐える覚悟です。
当社の競争力の源泉は「大規模シミュレーション」、「高速計算」、これに加えて金融業界出身という「業務経験」です。 最近改めて認識したのですが、当社の高い技術力は情報サービス業としては異常値であるようです(「コラム: 大衆化するITエンジニア」参照)。 これは長所としては他社にとってとんでもない参入障壁である一方、短所として見れば、「製造販売するシステムが難しすぎて普通のエンジニアには作れない」ことを意味しており、すなわち採用難を通じた業務拡大の障害です。 より簡易な仕事まで受注して会社を大きくすることも考えられますが、技術の希薄化は当社の本意ではありません。 当社は規模の拡大よりも現在の技術レベルをさらに磨く方向を選択します。
リスク管理業務にはさらに研究すべき話題が多くあります。 今日、その主役は数学ではありません(「コラム: LTCM事件: VaRシステムに与えられた試練」参照)。 リスク管理システムの運用に関する経験が蓄積されるにつれて市場VaRや信用VaRについてはむしろ目的に応じて簡素化する方向にある一方で、保険会社における負債サイドALM、リスク指標のコンポーネント分解など、経営の根幹に関わる問題が私たちの仕事の中核になっています。 当社は研究開発に生きる企業であり、挑戦し続けなければ生き残れない宿命にあります。 この仕事をしていてつらくもあり、また醍醐味でもあるのは、私たちがまさに金融の最前線にいるという実感なのです(「コラム: 金融工学は役に立っているか?」参照)。
事業リスクの回避
当社にとっての主な事業リスクは、知的所有権関係と開発プロジェクトのリスクです。 知的所有権については、商標登録、著作権登録、および特許申請によって防御しております。
開発プロジェクトのリスクについては次のように考えます。 当社には、金融機関におけるシステム開発に関しては発注側・受注側の双方から長年の経験があります。 資本面の充実によって大型プロジェクト案件に耐えうるだけの財務体力もついて参りました。 それでもなお、仮に開発プロジェクトのリスクが現実のものとなった場合、売掛金回収期間の長期化と経営資源固定化により経営悪化が不可避です。 また何よりも風評の悪化を懸念しますから、中途でプロジェクトをやめるわけにはいきません。 受注前段階において開発リスクを案件別に評価し、成功確率が低く危険と判断したならば、商談見送りも辞さない方針をこれまで通り堅持したいと思います。
そのほか、当社の顧客に対しては、顧客、当社、(財)ソフトウェア情報センターの三者間でのソフトウェア・エスクロウ契約締結を促しており、当社に万が一の事態が起きた場合にはソースコードを含む全預託物が譲渡されるようにしております。
どうか今後とも一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
ニューメリカルテクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 鳥居 秀行